フジロック・ファミリーと育むサーカス家族の絆 – さくらサーカスインタビュー
- 2025/07/17 ● INTERVIEW
ヘッドライナーのステージが終わった深夜に、パレス・オブ・ワンダーの一角で華やかに咲き誇るさくらサーカスのショーが、みなさんも思い出に残ってるんじゃないでしょうか。単にライブを楽しむだけでなく、映画があり寄席があり、そしてサーカスがあるフジロック。さくらサーカスは、まさにそんなフジロックをフェスティバルたらしめている存在とも言えるでしょう。
今回は現在絶賛巡演中の大阪府堺公演にオルグ大阪チームでお邪魔して、アラン・マルチネス団長の奥さんで取締役の小深田尚恵さん(以下ヒサエさん)と、長男のアラン・ダビッドさんにお話を聞きました。トレーラーハウスで各地を移動して公演をしながら、併行してフジロックを目指すタフな姿に惹かれましたが、ショーをするだけでなく「私たちもフジロックロスになるんですよ」とフジロックを目一杯楽しんでいる様子。現地でお世話になっている方々を「フジロック・ファミリー」と語り、苗場で共に育つフジロックへの想いを話すヒサエさんの姿が印象的でした。
ちょうど公演後で、子ども達が走り回ったり後ろで練習をしたりにぎやかな中でしたが、そんな姿も大家族でつくるさくらサーカスの雰囲気が感じられるあたたかい時間でした。ぜひ読んでもっと身近に感じてもらって、当日はパレス・オブ・ワンダーに足を運んでみてください!

白熱の堺公演のレポートはこちら!フジロックともまた違う壮大なショーにぜひ足を運んでみてください!
さくらサーカス @ 堺旧港エリア特設会場 2025/06/22 堺公演レポート「魅せる超絶パフォーマンスの源は家族の愛 笑顔の花咲くさくらサーカスへようこそ!」
普段のショーとは一味違うフジロックの醍醐味
ーー:毎年ショーを楽しませてもらってます!最初はどのような経緯でフジロックと関わり始めたんですか?
ヒサエ:最初に出演したのは2020年のさくらサーカスの旗揚げよりずっと前で、2010年にパパ(アラン・マルチネス団長)が当時あったオレンジ・コートで綱渡りをして、パレス・オブ・ワンダーで大車輪をさせてもらいました。ヘンリーっていうピエロが堺公演の期間中だけ来てくれてるんですけど、ジェイソン(SMASH UKのボスでパレスを仕切っているジェイソン・メイオール)が「大車輪をやりたい」って考えがあったみたいで、それでイギリスでピエロをやってたヘンリーに話が入って、「日本に友達がいるから」ってことで団長を紹介してもらったのがきっかけですね。
ーー:はじめて出演してみてどうでしたか?
ヒサエ:野外の大きな会場でやるのはその時のフジロックがはじめてだったんですよ。普段は明るい時間にやるので夜中のショーってことにすごくびっくりしたのと、サーカスに来るお客さんとフジロックに来るお客さんで、歓声とか盛り上がりが全然違うので、すごく面白いなって思いました。
アラン・ダビッド:ママが言った通り普段の公演とお客さんのリアクションが全然違うから、フジロックに出演したサーカスのアーティストたちはみんなあの場所が好きって言ってますね。

24年の様子 / photo by 安江正実
ーー:深夜でお酒もたくさん飲んで、はっちゃけたテンションですからね。
ヒサエ:当時は後ろで人間が飛ばされるヒューマン・キャノンもあって、その前で大車輪をやらせてもらってね。それからジェイソンとすごく気が合って、「これやりたい!」「じゃあそれやろう!」みたいな感じで、ほぼ毎年やらせてもらって。それまでは「マルチネス・ブラザーズ」の名前で出演してて、2020年に旗揚げしてからさくらサーカスとしては今年で3回目の出演になります。
ーー:和歌山県印南町の旗揚げ公演にも行かせてもらったんですけど、コロナでフジロックも中止のタイミングで、スタッフさんもあまり来れないって話をされてましたよね。その時のお話を少し聞かせてください。
ヒサエ:「楽しいことをしてはいけない」みたいな雰囲気がある中で、それでもみんなサーカス人としてステージに立ちたいっていう葛藤がありましたね。お客さんがいなくてパフォーマンスの衣装でビラを配りに行ったり、来てくれた2人だけのためにショーをやったりしたこともありましたが、「続けていく」「止まらない」って思いでやってました。フジロックで関わっている皆さんも「応援してるからね!」「頑張って!」って言ってくれて、とても支えられました。旗揚げの時は、地域の方が「イノシシが獲れたから食べろ」って持ってきてくれたり。切って持ってきてくれるかと思ったらそのままボーンって(笑)
ーー:イノシシをさばくのは難しそうですね。
ヒサエ:私、得意ですよ(笑)
アラン・ダビッド:ネットで解体方法を調べて自分たちでやりました。
サーカスは仕事ではなく人生
ーー:テントの設営しかり、業者さんに頼むとかではなく、なにごとも自分たちで作り上げているのがすごいですよね。それから各地を移動して公演をしていますが、トレーラーハウスでの生活についても少し聞かせてください。一定の場所に定住している身としては、なかなかイメージが湧かなくて…。
アラン・ダビッド:3〜4ヶ月ずっとその場所でトレーラーハウスで生活して、子ども達も転校しながら学校に行って、公演が終わったらまた移動してって感じですね。
ヒサエ:引っ越しが大変って言われるんですけど、意外とそんなこともないんですよ。家ごと移動してるので、周りの景色が変わるだけというか。お隣さんが変わって「今回はお兄ちゃんの家族が隣ね」とかなったりするので、それは少し新鮮です(笑)

さくらサーカス提供
ーー:学校の席替えみたいですね。3〜4ヶ月も公演を続けてると、例えばこの堺だったり、姫路とか徳島とか、その土地や現地の方々にも愛着が湧いてきそうですね。
ヒサエ:友達がいっぱいできるよね。
アラン・ダビッド:別れの時はもちろん寂しいけど、「またそこにいけば友達がいる」っていう楽しみがあるから全然大丈夫!今日も徳島や高松から来てくれた人もいました。
ーー:逆に各地での公演に来てくれた方がフジロックにも来てくれるってこともありそうですね。
アラン・ダビッド:去年も熊本とか大阪から来てくれたよね。
ーー:どんどん増えていくのは楽しそうですね!ちなみに物心ついた頃から各地を移動しながらサーカスをずっとやってると思うんですけど、嫌になったりとかそういうことはなかったですか?
アラン・ダビッド:練習を長い時間繰り返すので子どもの時はきついとは思ったけど、辞めたいとかやりたくないとかはまったくなかったですね。小さな頃からサーカスのアーティストとしてステージへのリスペクトを教わってるから、逆にステージのない生活はすごく難しいと思う。それが当たり前で、仕事じゃなくて自分の人生なんですよ。
ーー:人生。確かにアラタくんとかを見てても、もちろん「小さい子がかわいい」みたいな視点もあるんですけど、顔つきや表情がプロフェッショナルですもん。身が引き締まる思いです。
アラン・ダビッド:平日は公演が終わった後ここで空中ブランコや綱渡りをみんなで練習して、そうやって育ってきました。ご飯も遊びもみんな一緒で、昨日も裏に大きなプールを作って、ショーをやってる時小さい子達はずっと遊んでたり、駐車場でサッカーしたり。
ヒサエ:こういう生活の中で精神的にみんな強靭になってるんです。姫路公演の時にアラン・ダビッドがマラソンに出場させてもらったんですけど、42.195kmをほぼ練習なしで走り切ったんですよ。あれって本当に精神的に強くないと無理だよなって感じて。靴を脱いだら血だらけだったもんね。肉体もだし、怪我しても出たり痛くても出たりっていう、精神的な強さがないとやれないことだよなって感じています。
つながっているフジロック・ファミリーの絆
ーー:そんなさくらサーカスならではの魅力ってどういうところだと思いますか?

(ここで「パパー!」と娘さんが乱入)
ヒサエ:まさにこういうところですね。だめだめ、今パパお仕事だから(笑)
アラン・ダビッド:(笑)。さくらサーカスはたくさんの家族でつくってて、お客さんもそのあたたかさを感じられるところがいいんじゃないかな。他のサーカスだとどうしてもアーティストとお客さんで分かれるけど、壁がなくてお客さんと一緒になってるのが魅力だと思います。
ーー:観ている中でもすごく感じますね。ビジネスライクなものとは違う、ファミリーのつながり。フジロックでも何回か見させてもらってる中で、「アラシくん大きくなったなあ」とか「アラタくんめっちゃかっこよくなってるやん!」とか、毎回色々感じます。
ヒサエ:よく言われます!親戚が一年に一回集まるような雰囲気ですよね(笑)。フジロック・ファミリーの方々も子どもの成長を楽しみにしてくれてて、例えば苗場プリンスホテルの自販機や売店を運営してくださってるご家族にいつもお世話になっていて、すごく可愛がってくれます。りんごを送ってくれたり、大阪も来るよって言ってくれてて。
ーー:フジロックで色々つながりができて、一緒に育っていくような感じもありますよね。
アラン・ダビッド:そうですね。パレス・オブ・ワンダーの人たちとも仲良くなって、まさにファミリーって感じがします。
ーー:パレスの方々っていうと、去年ROUTE 17 Rock’n’Roll ORCHESTRAのライブが終わってから日高さんとともにジェイソンとお兄さんのギャズが出てきて、お父さんのジョン・メイオールを悼む時間がありましたね。そこでパレスの方々もたくさん出てきて。
ヒサエ:お兄ちゃんは一緒にステージ立ったよね。
アラン・ダビッド:グリーンステージから見た光景もすごかったし、改めてパレスのビッグファミリーを感じました。
ヒサエ:日高さんはご挨拶するくらいなんですけど、子どもの成長をずっと見てくれてて。みんなのお父さんだよね。
ーー:「フジロック・ファミリー」っていうのが印象的です。血縁だけじゃなくて、もっと大きくてゆるやかなつながりのあたたかさを感じますね。
ショーをするだけじゃなく、自由に楽しむフジロックの日々
ーー:ちなみにフジロックはいつくらいに現地入りしてるんですか?
アラン・ダビッド:今年は21日に入って、設営をして本番って感じですね。堺公演と並行してやるので全員は行けないんですが、みんなフジロックが大好きなので行きたがってます(笑)
ーー:みなさんお好きなんですね!ショーの時間以外はどんな感じで過ごしてますか?
アラン・ダビッド:川に行ったりとか、ドラゴンドラで上まで行って戻ってきたり毎年してますね。2023年は僕の大好きなBAD HOPが出演してて、前の方で楽しんでから終わったら走ってショーの準備っていう。おいしいものもいっぱいあるから色々食べたり、みんな自由に楽しんでます。
ヒサエ:だから私たちも終わると「フジロックロス」になるんですよ(笑)。もうちょっといたかったなって。
ーー:みんな一緒なんですね(笑)。フジロックで過ごしてて印象に残ってるエピソードってありますか?
ヒサエ:やっぱりショーを見た次の日にお客さんが声をかけてくれたりとか、そういうのが嬉しいですね。あとこの子が「フジロック史上最年少デビュー」ってことでジェイソンに認定してもらったんですよ(笑)。生後2週間で、2018年の7/14に生まれてそのまま苗場に。小さな子達もみんなフジロックに連れていくんですが、むしろ昼間にいっぱい遊んでエネルギーを発散してもらって、夜はショーに専念って感じで過ごしてます。そこでみんなに可愛がってもらえるのも嬉しいですね。

アラン・ダビッドさんの後ろのピンクの靴の女の子が、生後2週間でフジロックデビューしたそうです。
ーー:2週間はすごいなあ。やっぱり子ども達にとっても思い出の場所で、毎年帰ってきたい気持ちがありますよね。
アラン・ダビッド:あと僕がイカリオス(アラン・ダビッドさんの足の上でアラシくんやアラタくんが宙返りを繰り返し続ける、さくらサーカスの代名詞的な足技)で使ってる音楽は2CELLOSの“Kagemusha”という曲なんですが、ちょうど彼らも出演してた年に「使ってくれてるよね!」って呼ばれて一緒に写真を撮ったのはとてもいい思い出です。
ーー:おお、それは思い出深いですね。最後にフジロックへの意気込みを聞かせてください!ネタバレにならない程度に聞きたいんですけど、今年も新しい挑戦があるみたいで。
ヒサエ:毎年去年を超えなきゃって意識はしてますね。去年はイカリオスと綱渡りに、空中ブランコもやってすごい規模感だったので、あれを超えるのは大変ですが(笑)。今年は日本のサーカスでどこもやっていない一風変わったことをするので、さくらサーカスの色んな魅力を楽しんでもらえたら嬉しいです!
ーー:楽しみにしてます!またパレス・オブ・ワンダーでお会いしましょう!
Interview by 阿部仁知、三浦孝文
Photo by エモトココロ
さくらサーカス 堺公演 in 堺旧港エリア特設会場
2025/6/7 Sat. – 11/3 Mon.
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