フジロックと苗場の恒例行事に地元の新世代が吹かせる新たな風。フジロックの森ボードウォークキャンプVol.77をレポート。
- 2025/06/11 ● REPORT
フジロックと言えば苗場。苗場といえばフジロックの森。フジロックの森と言えばボードウォーク。現地で森の中を移動するみんなの足場となる全長約2kmのボードウォークを開催前に修復するためのボランティア活動&キャンプイベント、それがわれわれがこれまでにも幾度にわたって取材してきたボードウォークキャンプだ。
傷んだボードウォークを剥ぎとって運搬、回収しやすいように釘を抜いて積み上げ、それが済んだら新しい木材を運んで設置。なかなかのハードワークも地味な作業も、この場所で行うととても清々しく、フジロックを一緒に作っている気分になれるのが嬉しい。

この日のメニューは山菜の天ぷら!
加えて地元食材を使ったあったかい昼ごはんが振る舞われ、おなじみの温泉雪ささの湯の入浴券もついてくる。そしてもちろんキャンプサイトはフリーという特典てんこもりで、参加希望者は増加の一途だというのもうなずける。ボードウォークキャンプの魅力は過去にこちらの記事なんかでもまとめているので見てみてほしい。
Why BoardWalkCamp? ぼくらがボードウォークキャンプに行く理由
http://fujirockers.org/?p=19460

新緑のグリーンステージ
今年初の開催となった第77回の5月24日は、雨予報の影響もあって実際には少し減ったようだが、参加希望者が150名を超えたという人気ぶり。観光協会の方たちに少しお話をうかがったところ、参加者が増えすぎても赤字になるというのが実情なようで、少しだけでも収益が出る仕組みも考えていきたいということだった。ええ、だって明らかにいたれりつくせりで、フジロックファンならずともアウトドア好きにとってはいいことしかないイベントなのだから。もう少しこちらから返せるものがあると何度も現地参加してきた筆者は思っている。

恒例の朝イチ集合写真
今回は雨まじりの天気が続き、季節外れと言っていいであろう寒さになかなかしびれた。やはり苗場ならではの自然の厳しさがあるのは忘れてはならないポイントではある。そしてこんな時、いつもなら自身のキャンプサイトで焚火にあたり熱燗でも飲んであったまるというシンプルな過ごし方で寒い夜を越していたところだが、この夜は運営主催のDJパーティーが苗場食堂で行われるということ。地元の若い方たちがわらわらと集まってきて厨房でフードの仕込みをはじめている。どでかい焚火台も設置されて吐く息が白い中、ぽつりぽつりと人が集まり出した。

ヒト以外の可愛いお客様も集まってきた
こんな風に、最近のボードウォークキャンプでは不定期ではあるものの夜のイベントが開催されることもある。その一役をかっているのが地元出身のいわば二世代目の人たちだ。湯沢をホームとする20〜40代あたりのみなさんが企画して、新たな局面を見出しはじめている。
この日、DJとして登場したお二人がまさにその渦中の人物。ご実家は近隣の宿舎で観光協会とも関わりが深く、子供の頃からフジロックが当たり前にそこにあったという黄金エイジだ。自らも音楽活動をしていく中で、フジロックやボードウォークキャンプとどんな関わり方をしているのか、同じくこの日DJとして参加していたフジロッカーズオルグのBOSS花房浩一を交えて、少し話を聞いてみた。
DJ POKASKA:ボードウォークキャンプでイベントを始めたのは、観光協会から夜も何か楽しめることができないかって話が上がって、お酒と音楽が用意できたらいいよねってなって。ここ3年くらいの動きですね。
花房:俺もなんかやらせてよって話したんだよね。それまでは夜は何にもすることなくてつまんなかったからさ。
─── いやいや、しっぽり焚き火を見て過ごすのもそれはそれで楽しいのよなんて思いつつ、ボランティア活動、キャンプ、音楽イベントが3本柱となり楽しみ方が増えたのは確かだ。
DJ TOMMY:年々ブースに近づいてきてくれる人が増えて嬉しいです。
花房:ちょっとイベントとして定着して来てる感があるよね。
DJ POKASKA:そうですね、続けていきたいです。

DJ TOMMY/生粋の苗場ローカルDJ。フジロックの影響でUK音楽に目覚め、DJ活動を始める。JUNGLE、DRUM&BASS、RAGGAEを軸にオーディエンスと一体になるようなプレイが得意。最近では地元の「JTRIP BAR」でクラブイベントを主催し冬の苗場の音楽シーンを盛り上げるために日々尽力している。ご実家はとみやさんという宿。
花房:地元出身だと子供の頃からフジロックに触れていると思うんだけど、初めて参加したのはいつなの?
DJ TOMMY:初めては中1のときで、2000年だから苗場開催での2回目。前夜祭にモンパチが来て絶対見たいと思って。初体験はシビれすぎて、こんな楽しいことがあるのかって思った。
DJ POKASKA:僕は小学校1年とか、記憶がないだけでもっと前かもしれないけど子供の頃からフジロックに来てて。音楽が好きになったのはフジロックが近くにあったのと、親(苗場突撃音楽隊でステージにも立っている観光協会会長さん)の影響もめちゃくちゃでかいですね。エレクトロミュージックを好きになったのは、中学のときに初めてケミカルブラザーズを見てなんじゃこりゃ!ってくらって。

DJ POKASKA/Stones Taroを愛するUKGラバーであり、フジロックをこよなく愛する苗場の若頭。実験音楽とダンスミュージックのはざまを開拓するそのプレイは、エレクトロサウンドのオルタナティブな側面を表出させる。ご実家は東屋ロッヂさんという宿。現在は東京を中心に活動中。
─── 思いこがれてフジロックにやっとの思いで参加したときには20代後半になっていた筆者からすると、なんとも憧れの青春時代である。子供の頃からフジロックに行ってれば、そりゃあ耳が肥えるよ、と関係者によく言われると語っていたがそれも納得だ。フジロックの期間中は何をしているの?という問いには実家の宿か苗場食堂の手伝い、それ以外は遊んでるということ。
そこですかさず、花房浩一がツッコむ。
花房:俺が言いたいのはさ、せっかく地元でDJ活動しててSMASHに言いたいことないの?ってことなんだよ。
二人:DJ…したいっすね。
花房:だよなあ!自分たちの機材もここにあるわけだし、自分たちの場所を作って、地元の人たちがオーガナイズするパーティーがあってもいいと思うんだよ。それを目指そうよ。なんで俺たちにやらせないんだよってSMASHに言おうぜ!

この日も昭和歌謡でキメていたフジロッカーズオルグのBOSS花房浩一。おかえりー!の人。
─── やんちゃな兄貴が遊びに誘いにきたようなノリの花房の勢いに圧倒されながらも、近くて遠いそのステージに思いを馳せて語りはじめた。
DJ POKASKA:いろんなところでDJをやらせてもらってるけど、身近で思い入れが強いフジロックでやりたいって言う気持ちはめちゃくちゃある。自分の中で絶対に一番のフェスだし、やれることならなんでもやりたいというのが本音です。
花房:俺が思うのは、フジロックってみんなもちろん音楽が好きで来ているんだけど、音楽で自由に遊ぶ場がないなって。プログラム化されたライブ以外の小さいパーティーみたいなのがグラストンバリー・フェスティバルなんかだとあるんだけど、そういうのがないのがさみしいなって。地元の人を巻き込んで成立しているイベントなのだから、地元の人がもっと声をあげてもいいんじゃない。俺たちにやらせろーって。
DJ TOMMY:確かに、なんでもっと言ってこなかったんだろう…(笑)。本気で動いたほうがいいですね。
DJ POKASKA:前夜祭の岩盤とか、やりたいなあ…。
花房:俺は俺で新しい場を作る働きかけをしていきますけど、君たちも声を上げてください。地元の人が動くことに意味があるのだからね。フェスティバルっていうのは、口をあんぐり開けて楽しいことがやってくるのを待っているだけでは意味がない。自分がその一部になれって先駆者たちが言い残しているのだから。
─── 布袋寅泰だって自分からフジロックに出演したいと営業にいったと言われている、なんて噂話も盛り上がる。
DJ TOMMY:こっちがやる気を持って本気で動くことがまず大事ですよね。
花房:期待してます。ローカルなエリアができていったらそれはフジロックの新しい宝になるはずだよ。
DJ POKASKA:そうですね。フジロックが終わった後でもこの場所に興味を持ってほしいし、自分たちがもっといろんな面で盛り上げて、フジ以外でも楽しいことやってるよって伝えられたらいいな。
そんな話を聞きつつ音楽に酔いしれ、大いに盛り上がった苗場の夜。今後のボードウォークキャンプとフジロックの新たな風に期待を膨らませながら乾杯は続き、今回もまた大二日酔いの体と共に下山したのであった…。次回ボードウォークキャンプは7月5日の予定。フジ気分を先取りしにぜひ苗場へ!
Text by 東いずみ
Photo by Ryota Mori
“Boardwalk Don’t Run Vol.79”参加者募集!
日時:2025年7月5日(土)
内容:ボードウォーク破損箇所の整備、清掃など
申込締切:6月30日(月)17時まで (定員になり次第締め切り)
参加費:無料 ※現地までの交通費・お食事(当日昼食以外)・宿泊費は各自ご負担ください。
申込方法:以下フジロックの森のサイトよりお申し込みください