• 認真戀愛”大港開唱”五秒前 ~台湾のロック・フェスに行きたいわん Vol.2~


    *聽咱的歌聲*

     ブォォォ~ンと霧笛のSEが鳴り響き、セット転換中はステージを隠すために垂らされていた暗幕が下げられ、「拍謝少年 Sorry Youth」の3人のシルエットが浮かびあがる。と、はじまったのはLEDヴィジョンに映された「三びきの子ぶた」を題材にした、いまの台湾をとり巻く時勢を物語るアニメーション。狼は五芒星の帽子をかぶっている。その2分ほどの動画のあと、のっけから最高潮の「Intro」の演奏から、1曲目は去年発売された4枚目のアルバム『噪音公寓 Noise Apartment』からのタイトル曲。歪んだ轟音のギターに負けじと、はやくも観客の大合唱がはじまる。

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     拍謝少年はリズムが変拍子の曲が多くて、勝手に ”台湾のThe Stone Roses” と呼んでいたのだけれど、国民党政権下での標準語だった台湾華語(北京語)ではなくそれ以前からの台湾語(ホーロー語)で歌っていて、ノーザン・ソウルやモータウンの影響を受けたストーン・ローゼズのような黒人音楽的なリズムというより、ズンドコしたオフビートなリズムが、抑揚の強い台湾語の発音と相性がよいからなんだろうか。EDMに馴染んだいまどきの世代にも親しみやすいのだろう、そんな ”キャッチーで踊れるオルタナ・ロック” の「歹勢中年」では、大合唱とともに、飛び跳ねながらぐるぐると駆けめぐる輪ができる。歌詞 (PVに日本語字幕が付いている)はというと、中年になって感じる等身大の思いを歌っているのだけれど。「Sorry No Youth」という英題が笑える。

     中盤にまた三匹の子ぶたの寓話的なアニメーションをはさんで、「時代看顧正義的人」。バックグラウンド・ヴィジュアルが突きあげられた無数の拳の劇画になり、国共内戦に破れ大陸から台湾島に逃れてきた国民党の「白色テロ」の弾圧の時代から民主化を果たし、そして近年の「ひまわり学生運動」から「同性婚合法化」まで、台湾の現代史を記録した数々の写真のフラッシュバックになる。ちなみにこの曲のPVには、日本統治時代に生まれ、白色テロ時代、そして民主化と経済成長を成し遂げた現在までの半生を漫画にした『台湾の少年』の挿絵と、主人公の蔡焜霖その人が登場する。

     ここからの拍謝少年の演奏は圧巻。ベースの薑薑 Giang Giang が台湾人の団結を呼びかけ、「暗流」の情景的なノイズ・ギターのリフに誘われて、ようやくマスコット・キャラクターの上半身裸の虱目魚(サバヒー)男が登場。ネオン・チューブを光らせ両手にシャボン・ガンを放ち、無言だけれども雄弁に煽りながらステージを闊歩する。ベースの薑薑、ギターの維尼 Weni 、ドラムの宗翰 Chung Han の3人が1曲のなかで交互にヴォーカルをとる拍謝少年の曲は、サビになるフックが2つ3つと訪れる。そのどれもが等身大の思いを代弁した歌詞で、観客みんな腕を振りあげ、身体をよじらせて、満面の笑みで、あるいは真剣な眼差しで、声を張りあげてシンガロングしている。なかには感極まって目頭を熱くする人も。

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     「聽 咱的歌聲 共阮的故事」

     聴け、俺たちの歌を、俺たちの物語を。世界中でいま、1人の人間のちっぽけな命が、政治家の都合で好き勝手にされている。ここで声を枯らして歌っている人たちの存在など、まるではなから無いように。じゃあ、いまこの瞬間はなんなのだろう…そんな思いに駆られてしまう。でも少なくとも、思いを代入できる歌がある。ストーン・ローゼズというより ”台湾のOasis” だな。レインボー・フラッグや台湾島を象った無数の旗が潮風になびき、大量のシャボン玉が波の花のように流されていく。まるで海の底から見上げているような、幻想的な光景だ。最後の「兄弟沒夢不應該」の轟音とテンションの奔流は、真っ赤な照明とモノクロームのBGVとの対比も相まって、まるでNiel Young & Crazy Horseじゃないか。

     上空を飛ぶドローンの映像がヴィジョンに映しだされる。FOHのはるか後ろ、500メートルはある埠頭の半分は観客で埋めつくされ、その先は見えない。虱目魚男がふたたび現れ、ステージ上から無数のビラをばら撒く。真紅のビラ(この日上映された動画をダウンロードできるQRコードが印刷されていたらしい)は観客の手によって、学校の小テストみたいにまえから後ろへと次々に手わたされて、みんながいっせいにそれを高々と掲げる。

     LEDヴィジョンには、がっちりと手をとりあった大勢のぶたのキャラが火事に立ち向かうアニメーション。1時間のセットが終わり、拍謝少年の3人がステージの袖へと消えていったあとも、いくつもの旗を振りかざしながら、大合唱がしばらくやまない。なんども来日して、身近なところではItami Greenjam’23 やBiKN Sibuya、去年のミナミ・ホイールにも出演している拍謝少年だけれど、今日のこのステージは台湾でしか、台湾のフェスでしか経験できないものだな。「南霸天」の両脇のヴィジョンには次のアーティストの名前とともに、『人生。音樂。』と大港開唱のキャッチコピーが映しだされている。

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     ものすごいものを観たあとの虚脱感と、2日間の蓄積した疲労とで、もうその場から動けなくなってしまった。ちょうどいま「女神龍」で演奏している台湾の「deca joins」も、そのあとの15年ぶりの台湾公演というくるりも気になるところだけれど。とくにdeca joinsは、仄かな60年代のUSポップスと80年代のシティ・ポップの香りがセンスよくただよう実力派のバンドで、見逃すには惜しいのだが。ほかの観客とおなじように地面に座りこんで、ヴィジョンに流れるCMを眺めながら待つ。フジロック・フェスティバルへのツアーを募る台湾の旅行代理店のCMも頻繁に流されていて、昨日、今日とフジロックTシャツを着た観客も10人は見かけた。サマソニのTシャツも数人。

     大港開唱2025の大トリはThe Flaming Lips。開演直前には見切れ防止の暗幕の向こうで「10 minutes!」「5 minutes!」「Just 1 minute!」とカウントダウンするウェイン・コインの声が聞こえてくる。それに対してやんやの歓声が。「0!」のかけ声とともに霧笛のSEが鳴り、暗幕がスルスルと下がる。2002年のアルバム『Yoshimi Battles The Pink Robots』の全曲再現ツアーの一環ということで、ステージ上には4体のロボット型のピンク色の巨大なバルーンが林立している。第1回目のサマーソニックで観て以来だけれど、そのときも、ウサギやトラやゾウの着ぐるみや大きな風船でステージが埋めつくされていたっけな。

     演奏…自体は、まぁ、昔から「当て振り」を公言しているバンドなので、純粋なショウなのだが、あいかわらずポップでサイケで煌びやか。「サンキュー、サンキュー、サンキュー」と、ウェインがことあるごとに感謝を述べている。初めて台湾を訪れてすっかり虜になるパターン。うん、よくわかる。「Do You Realize??」では待ってましたとばかりに大合唱に。台湾の観客、それも若い世代の勉強熱心さには頭が下がる。それとも、なにかのミームになっていたのかな? ウェインが巨大な風船をステージから次々と投げ入れるものの、強風に煽られてぜんぶ夜の高雄湾へと飛ばされていく。ちょっとした事態に大きな笑い声に包まれる。回収が大変そうだ。

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     拍謝少年の途中で「海龍王」まで元Boom Boom SatellitesのTHE SPELLBOUNDを観にいった仲間と、終演後に台湾啤酒のブースのまえで落ちあって、帰路へとつく。鹽埕埔站から、昨日も今日もとくに待つこともやり過ごすこともなくすんなりとMRTに乗れて、2駅先の美麗島站で降り、余韻もそのままにすぐ近くの六合観光夜市に。大港開唱のTシャツやタオルをまとったお客さんの姿も多くて、ちょっとした打ち上げ会場といった雰囲気。夕方に食べたホットドッグと刈包がとんでもない腹もちのよさで(翌朝まで!)、この日の夜はバーの屋台で台湾啤酒の生ビールのみで済ませる。フェスの余韻と名残惜しさと、台湾あるあるの「買一送一 mai yi song yi」(2つ買うと1つ無料)で3杯も飲んでしまったのだけれど。さすがに疲労困憊。でも、最高にいい気分。最高にいい夜だ。

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