Photo by Yusuke Kitamura
「フジロックでの3日間はずっとヘブン!」。フジロッカーズの中にはそんな人も多いのではないでしょうか? ヘブンのブッキングの間違いなさと、あ の森に囲まれた自由な空気。そして、ごはんもオアシスに並ぶ激戦区。そんなフジロックの裏メインとも言えるフィールド・オブ・ヘブンにこれまた欠かせない のが、今では定番となったライブペインティング。今回は、そんなヘブンの濃い空気をより色づけてくれている、ライブペインティングユニット gravityfree の djow(デジョー)さんと 8g(エイジ)さんにお話を伺ってきました。
ステージから聞こえてくる音に合わせ、下書きなんてなしに即興で絵を描いていくライブペインティング。リズミカルな筆使いから生み出されるおふたりの絵に見とれてしまい、声をかけたいのにタイミングがっ……なんて人、必見です!
————グラフィックを勉強していた学校の寮で知り合い、友達に「終わらなくてもいいからパーティーで絵を描いてよ!」と誘われたことが、おふたりのライブペイントの始まりとのこと。
djow「友達のパーティーとかイベントでペイントをやり始めたら、“面白い” って色々なところから呼ばれるようになって。始めは遊び感覚で、メンバーも何人かいたし流動的だった」
8g「『グラビティー・フリー』という名前をつけたのも他のメンバーだったし」
djow「その中で基本常駐でやっていたのがこのふたりだったってだけで。そのうちにバイトをする時間も無くなってきて、ライブペインティングに専念するようになった」
————アーティストがふたりでひとつの絵を描くということは、とても珍しく難しいことだと思います。それぞれの個性や感性の違いを潰さず1枚の絵を仕上げていくには、どのような思いを持って描いているのでしょうか。
djow「共同作 業だから、チームワークという部分では部活みたいな。ガッチリかみ合う時もあれば、それちょっとどうなのってお互い納得しないまま、なんとか形にしたら良 いものが出来たってこともあるし。ずっとふたりでやっている絵描きはいないと思うから、そこの使命感は持っていて、どこまでやれるかまだまだ追求できる余 地はあると思っている。CDジャケットとかポスターとかの制作物はひとりでやることもあるけど、それでもグラビティフリーという枠の中で作っている感覚は 持っていて。ひとつのものを途中で交代して仕上げたりもするし、楽しんでやっているよね」
————友人の依頼に始まったライブペインティングアーティストとしての活動は全国各地へと広がり、2006年にはフジロックに初出演することになります。

Photo by Tadamasa Iguchi
djow 「まず新宿ロフトの紹介で4月のリキッドへブンで描いて、その年のフジロックが初出演。1年目は、何もわからない状態でキャンプの用意と筆と絵の具だけ 持って行ったんだけど、ヘブンの飲食店とかって、ただの白テントじゃなくて建物自体から作って雰囲気を出しているでしょ。こうやらないといけないんだっ て、そこで初めて気がついて。翌年は気張って2階建ての小屋にした(笑)」
8g「ホント。今思うと2階建てってないよね(笑)」
djow「それで3年目から、みんなが休みながらペイントを見てもらえる場所にしたらいいんじゃないのって、ベンチを置いて、今の張り出し屋根の軒みたいスタイルになったんだよね」
————これまでフジロックの会場で描かれてきたのは、1日ごとに違ったテーマで計3枚。昨年は、ジェリー・ガルシアの命日にちなんだ絵や、虫たちの楽しげなパーティーの様子などが描かれました。このライブ感のある絵は、おふたりの間ではアドリブで描かれているのでしょうか?
djow「会場に 入らないとわからない部分もあるし、流れは完全にアドリブだけど、描く直前に話はしている。会場の雰囲気やバンドの音から状況判断をして、じゃあこの引き 出しでいこう、この描き方でやろうとか。でも、お互いが即興で描いているわけだから、こうしたらそうきたか!って、相手が予想外の動きを見せることもある し、どうしようもないわけ。だから結構勢いで終わらせている部分もあるよね(笑)」
8g「それでも、誕生日のイベントならそれを絡めたり、その場所にあるものやイベントの雰囲気を出来れば盛り込みたいから。あとは3日間かけてもっと大きな絵を1枚描くというのも、いつかやってみたい」
————今年はアメリカのボナルーフェスティバルにも参加されたとのことですが、お客さんの反応はいかがでしたか?
8g「ボナルーは震災チャリティーをしに行ったんだけど、飛び入り参加に近い状況で、描く場所が決まるまでが大変だった」
djow「アメリ カはライブペインティング文化がないから、グラフィティーライターならあそこの壁に描けと言われたり。でも、キャンバスに描いてチャリティーオークション がしたいんだって話をしたら、やっと理解してもらえて。それと、募金をしてくれた人にポストカードをあげていたんだけど、アメリカはポストカード文化だか らお客さんの反応が良くて、反対にポストカード欲しさに募金してくれたり。募金なのに、お釣りをくれと言われたくらい。たくさん募金してもらえて安心した し、楽しかったよ」
————そんな、国内外たくさんのフェスを経験されてきたおふたりが、最も思い入れのあるフェスを教えて頂けますか?
djow&8g「やっぱり一番好きなのはフジロック。でも一番しんどいのもフジロック」
8g「しんどいなかでみんな頑張っているっていうスポーツマン的な。部活みたいな、そんな良さがある」
djow「なんで 毎年これをやっているんだろうって思うときもあるくらい大変で、修行のようだけどね。それでも、オレらのブースを休憩出来るように作ったことで、みんなの 拠り所になっていたり、他のフェスで知り合った人たちの集合場所になっていたり、毎年あそこでしか会えない人がいたりっていうのがあって。そういう人との つながりがあるところがいいよね」

Photo by Yusuke Kitamura
————最後に、昨年よりハートランド朝霧にて行われている “gravityfree” と、これまたフジロックで流木を使った装飾を手がけられている空間工作人 “Bubb” さん主催のイベント「ARTh camp 」について伺いました。
8g「 オレらの絵って大きくてギャラリーには展示出来ないから、どこかでまとめて展示したいねって話から、ヘブンで仲良くなった Bubb さんに相談したら、じゃあ知り合いのハートランド朝霧で、絵の展示もしながら何かイベントをやろうかって話が盛りあがって」
djow「絵は森 の中に展示していて、途中にハンモックがあったり、すごくいい雰囲気の中見てもらえる。 このイベントは “ものづくりをもっと身近にしよう” をコンセプトに始めたから、ワークショップがメインのキャンプなんだけど、ライブも見たいねって話になって。じゃあ、昼間にソーラーで蓄電した電気を利 用して、夕方5時から8時くらいまではライブをやろうってことになった」
————ワークショップはどのようなことをやられているのでしょうか?
djow「みんな で一緒に絵を描いたり、去年はお菓子作りに染めもの、ラフティングとかの10種類以上。元々絵描きは、ライブペインティングみたいに自分の描き方を見せる ということはしたくないんだと思う。でも、人の描き方を真似したからといって全く同じにはならなくて、自分なりのスタイルになっていく。例えばシルクスク リーン(Tシャツなどによく使われる印刷技法)にしても、自分で作れるようになったら外注しなくなるということではなくて、仕組みがわかると自分で出来る 限界もわかるし、注文もしやすくなる。こんなデザインもつくれるんだってこともわかるし。そんなふうに、シェアしていくことが、ものづくりの活性化にも繋 がればいいなって。だから ARTh camp では、シェアしてあげたいって気持ちを持った人に教えに来てもらっている。絶対楽しいから来て欲しいな」
上の世代から下の 世代へと、人から人へとものごとを教え伝えていくこと。これは、コミュニケーションなしには成り立ちません。ワークショップを通じ、これを実感出来るのが ARTh camp なのですね。このコミュニケーションを大事にする心が、ライブペインティングそのものに、また、ふたりでひとつの絵を描き続けていることにも繋がっている のかもしれません。
ボナルーではチャリティー活動をされ、実際に被災地にも向かわれたおふたり。「継続していくことが大切だから、みんなに協力してもらいたいし、その為には ボランティアする側が無理をしたり困らないようにもしていきたいよね」といった社会問題や環境問題などのちょっと考えさせられるお話も交えながら、楽しく 色々なお話をして頂いたのでした。そして今年のフジロックでも、おふたりのブースにてチャリティー用ステッカーを販売予定とのこと。みなさん是非チェック を!
<ARTh camp 2011>
■開催日:2011/9/23(金・祝)、24(土) ※25(日)まで宿泊可
■会場:ハートランド朝霧 中島牧場
http://arthcamp.jp/
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<sclap>
http://gravityfree.net/shop/index.html
gravityfree が、「現代では scrap (ごみ)として扱われてしまうものたちを Special Clap (拍手)もらえるものに」というコンセプトの下、ロールのまま廃棄される布を使用したり、古着をリメイクするなどして出来た服や小物を制作・販売中。おふ たりの環境に対するメッセージが込められたTシャツやポストカード等は、フジロック会場でも販売予定です。