• 朝霧JAMが大好きな出店者さんたちとつくる、豊かな営みのかたち – マーケットエリア担当・アースガーデン葛原信太郎さんインタビュー

    フェスティバルだから実現できる、違いを認めながら楽しむ寛容な在り方

    ーー:朝霧から少し話が逸れるんですが、葛原さんはグラストに通う中で日本との違いはどういうところに感じていますか?

    葛原:通うなんて言えるほどグラストのことを知っているわけではまったくないのですが、ひとつ思うのは、フェスっていうもの自体が人々に根付いてるなってことですね。2019年にはじめてグラストに行ったあと、数日間だけロンドンに泊まったんです。そのとき宿泊したAirbnbのオーナーさんは、とても上品なおばさまだったんだけど、グラストの話をしていたら「私もずっとテレビで観てたよ。私も若い頃は塀の下に穴を掘って忍び込んで遊びに行ってたんだよ」とか言ってて。今はかなり厳しくなってるようですけど、昔は徹底できてなくて、そういう若者がいっぱいいたみたいなんですよね。今ではとっても上品で素敵なおばさまが、何十年か前はやんちゃをしながら遊んでて、その話を聞いて「グラストって、こんなにみんなに浸透している「みんなのお祭り」なんだな」って思ったんですよ。

    山崎:そういう話を聞くと実感として思いますよね。

    葛原:今年はPulpの本場での盛り上がりを観たいなって思って、ピラミッド・ステージ(12万人以上収容のメインステージ)の一番上の丘まで登ったんですよ。そこで座って観てたら目の前におじいさんと孫っぽい2人組がいて、おじいさんがノリノリで、孫は隣にちょこんと座って観ていて。それも50年続いてきたから見える景色だなって思うし、日本と一番違うところかなって思いました。もしフジロックがあと25年続いたら、こういう光景が見えるのかなぁ。そうなれば日本にもフェスが根付いたって言えるのかなと、思ったりしましたね。たとえば祇園祭ってめちゃくちゃ続いてるわけですよね。グラストは50年やれたんだからもう50年やれそうな感じもするけど、日本で50年100年続くフェスティバルがあり得るのかなって。お祭りならありえてるわけじゃないですか。

    ワインを片手にPulpを見ている眼の前に座っていたおじいさんと孫と思われるお二人。おじいさんは、何年ここに通っているんだろう。(葛原さんより)

    ーー:確かに、お祭りはもう一歩深いところの文化として根付いてる感じはします。

    葛原:そういう意味では今年のフジロックの山下達郎みたいな、誰もが知ってる人がフェスに出演していくのは、フェス文化が日本に根づいていくために大事な気もします。音楽好きしか知らない人が出演しているだけでは、普通の人の眼中には入ってきませんから。ただ日本の場合はやっぱ、音量に対して厳しいですよね。幼稚園の子どもたちの声が騒音として我慢できないとか。そんなに音がダメだったら、そりゃあライブの音もダメでしょっていう。そもそも、フェスができる場所が少ないし、フェスみたいなものを許容できない人がそれなりに多い気がしています。

    ーー:僕も家の隣が小学校なのでまあうるさいですけど、そういうもんと思ってるんですけどね。フェスでもよくルールやマナーの議論になったりもしますけど、どっちでもよくないかとか思うこともあって…。

    葛原:そういう不寛容さや、変に干渉し合う感じはありますよね。実は、こういうことはずっと僕の中のテーマなんです。というのも、フェスとは関係ないんですけど、大学時代にずっと付き合ってた子がいて、社会人になってから振られた時に「信ちゃんは信ちゃんと付き合えばいい」って言われたんです。要するに「あなたと私は違うんだ」って話だと思うんですけど、その頃の僕は、おそらく自分の価値観を、その子に押し付けていたんだと思います。そう言われても自分が変わることがなかったから振られたんでしょう。今ではその子との思い出は本当に一部しか思い出せないけど、あの言葉はずっと頭の中にあって。今ではやっと、自分と他人は圧倒的に違うということがわかるようになってきた気がします。何が楽しいか、何で悲しくなるか、怒るポイントも違う。まったく違う人たちが、一緒に生きているのが社会だけど、それでも誰かと一緒に楽しめることもある。そういうことなんじゃないかなと思うようになりましたね。

    グラストには、子連れのファミリーもたくさん来ている。親も子どももタフだ。(葛原さんより)

    Glastonbury Festival(photo by 阿部光平)

    山崎:それはとても腑に落ちます。

    葛原:フェスティバルに関わるようになって、いろんなことを体験して、いろんなことに寛容になった気がするんですよ。小さい頃は誰かが決めたルールを盲目的に「正しいもの」と考えて、そこからずれることにとても嫌悪感を抱いていました。つまり「ダメだからダメ」みたいに思ってたんですが、今では、グレーなものも含めて「それが世の中だよな」って思うようになって。日常では許されないかもしれないけど、いろんな人の判断や価値観の存在がある程度許されるのが、フェスティバルっていう非日常空間なのかなって思うようになったかもしれません。

    ーー:橋の下でびっくりしたんですが、どこでもタバコを吸ってよかったり、ゴミ箱がなくてお店に返す方式だったり、ふんどし一丁の兄ちゃんが歩いていたりして。でも他の人も気持ちよく過ごせるように、ここをいい場所にできるようにって意識が通底しているから、タバコも少し離れた場所で吸ったりするし、あの自治の在り方はすごく印象に残ってます。

    葛原:まさにそういうことで、それぞれが自己判断で行動した結果、それなりに綺麗な場所が保たれているとか、誰かがデロデロに酔っ払ってても安心して寝てられるとか、そういう場所になっていくことが理想だと思うんですよね。そのためにはやっぱり、「それぞれ別々の価値観を持ってここにいる中で、みんなができるだけハッピーに感じられる場所はどうやったらつくれるんだろう?」みたいなことを、頭の片隅に置きながら過ごすのが大事なのかなって思ったりしますね。

    山崎:「ルールだから」だけじゃなくて、自分で考えることが大切ですよね。

    葛原:考えたりする中で、自分の感じ方も変わってきたりしますよね。ある程度同じようなものが好きな人が集まってるフェスの空間であれば、もうちょっと実社会よりも、他人に干渉しすぎないけど気持ちよさは担保されている空間ができる気がするんですよ。

    ーー:ある意味その実践の場になっているというか。そう考えると双方向的ですよね。フェスティバルと日常って。

    葛原:あまり意識しないと思うけど、本当はそうなんだと思います。

    photo by fujirockers.org

    つくる人に根ざして広がっていく豊かな光景をぜひあなたと!

    ーー:葛原さんは近頃は札幌国際芸術祭MASH-ROOMの家具屋としての活動など、さまざまなことに関わってますよね。マーケットエリアの制作や運営に活かされていることは何か思い当たりますか?

    葛原:芸術祭はアーティストによって出す作品が全く違ってるので、絵もあれば立体彫刻の場合もあって、バイオアートっていう生物を使うアートもあるし、手法がめちゃめちゃ多様なんですよ。アーティスト一人ひとりに担当をつけて、作品をどうやって見せていくかを考えていかなきゃいけなくて、それだけいろんな人が関わってるんですよね。そうやって野外フェスも芸術祭も関わってる身からすると、「もっと音楽フェスってできることあるんじゃない?」って気もしてて。

    『札幌国際芸術祭2024』では、メイン会場の一つ、さっぽろ雪まつり大通2丁目会場のプロジェクトマネージャーを務めた。芸術祭とはいえ野外でたくさんの人が訪れる環境だったので、野外フェスでの経験を活かせた。運営・施工チームは偶然にも、北海道内の野外フェスも昔からつくっているチームで、ライジングサン初回開催の裏話を教えてもらったり。写真は、雪景色の街に展示したアート作品。次回開催は2027年の1ー2月。ぜひ遊びに来てください。(葛原さんより)

    山崎:気になります。例えばどんなことですか?

    葛原:関わる人を変えていくことで、フェスにもいろんな景色が生み出せるんじゃないかなって思っています。例えば今『nobinobi』ってフェスに関わってるんですけど、つむぱぱっていうインスタグラムで100万人以上フォロワーがいるイラストレーターが手がけるフェスなんですよ。一緒に企画してる中で、ファミリー向けのイラストレーターだから、子ども連れが楽しめるようにとことん配慮しようって考えたり、「音楽フェス」じゃなくて「つむぱぱだからつくれる世界」をつくったほうが楽しくないですか?って話し合ったりしながら手伝ってます。これも普段フェスをやってる人じゃない、つむぱぱやそのまわりの人と一緒にやってるからこそ、他のフェスとはまた違う景色が生み出せるかなと思っていて。もっといろんな人といろんな場所をつくっていくことが大事だと思うようになったのは、芸術祭に関わるようになったことからも影響を受けていると思います。

    ーー:外の視点は大切ですよね。フェス業界からしたら当たり前のやり方だけど、別の業界からみたら全然違うとか、そういうこともあるだろうし。

    葛原:そうそう。だから、「フェスをやりたい→どんなフェスをやりたいか考えてファミリー層向けのフェスをやる」じゃなくて、「ファミリーに愛されてるコミュニティがある→その人たちがやるフェスだから自然と子ども連れにも配慮されている」みたいな順番で、つくる人に根ざしてできあがるものの方向性が決まっていくほうが、いろんなことが多様になっていくはずなんですよね。朝霧JAMも、そういうことをとても大事にしている石飛さん(石飛智紹氏 SMASH / 朝霧JAM実行委員会事務局長)が旗を振って、富士宮市のみなさんや朝霧JAMS’のみなさんをはじめとした、朝霧JAMが大好きな人たちが集まってつくっているので、自然とそういう方向に向きますよね。

    photo by fujirockers.org

    ーー:だからこその雰囲気ですよね。最後に、今年の朝霧JAMに思い描く展望を聞かせてください。

    葛原:いろんなところを見に行って欲しいってのはありますね。全部楽しめる規模感だと思うので、実はみんな知らないエリアもたぶんあると思うし。

    ーー:CARNIVAL STARにもぜひおいでよって思います!泊まらなくてもふもとっぱらに行ってみても楽しいし。今年は奥地のサウナにも行こうかな。

    葛原:マーケットも色々新しい試みをしていて、例えばリアル脱出ゲームもあるんですよ。担当さんがフジロックや朝霧がすごく好きな人で、知り合いを通じて紹介してもらいました。ああいう場所が好きな方だから頑張って会社を説得してくれて。それもほら、朝霧JAMが好きな人と企画をつくるっていうもののひとつですよね。そういう人たちと一緒にこだわってつくってるので、みんなたくさんマーケットに来てくれたらいいなって思ってます。

    山崎:おもしろそう!シルバーリングづくりも絶対やりたいし、今年もいろいろ行こうと思ってます。当日またマーケットエリアでお会いしましょう!

    出店者さんが撤収を終えたあとのムーンシャイン。たくさんの人が歩いて芝生を踏むことで、お店の中の動線の跡が芝生に残る不思議な景色。さぁ、今年も朝霧JAMでお待ちしています!(葛原さんより)

    interview by 阿部仁知、YAMAZAKI YUIKA

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