• 朝霧JAMが大好きな出店者さんたちとつくる、豊かな営みのかたち – マーケットエリア担当・アースガーデン葛原信太郎さんインタビュー

    葛原さんより

    少し秋らしい気候になってきた今日この頃。朝霧JAM開催まで1ヶ月を切りましたが、みなさん準備はいかがですか?朝霧JAMといえば富士山麓の素晴らしい光景や、地元の食材に舌鼓を打つフードなどが印象的ですが、気ままにお買い物やワークショップを楽しむ、マーケットエリアも欠かせない存在です。今回はマーケットエリアをコーディネートしている、葛原信太郎さんにお話を聞きました。

    アースガーデンのスタッフとして朝霧やフジロックのAVALON FIELD、代々木公園で季節開催される主催フェス『earth garden』に関わるほか、フリーランスとして愛知県蒲郡市で開催される『森、道、市場』(以下、森道)などにも関わる葛原さん。筆者の僕は昨年の『Glastonbury Festival』(以下、グラスト)ではじめてお会いしたのですが、それ以前からフェスティバルに対する考え方に共感し、ずっとじっくりお話したかったのでとても光栄な機会でした。ちょうど先日札幌で行われたグラストのトークイベントで、葛原さんと知り合ったオルグスタッフの山崎友以香も交え、様々な話が飛び交う楽しい時間でしたね。

    我ながら「朝霧の取材じゃないのかよ(笑)」ってくらい話題をとっちらかしてしまい、少し頭を抱えましたが、それも多種多様なフェスティバルでかけがえのない体験をしてきた葛原さんとだからこそ。ぜひ葛原さんの想いに触れて、マーケットエリアに足を運んでみてください。ここにしかない様々な体験が、あなたの朝霧JAMの思い出に一花を添えてくれることでしょう。

    葛原信太郎

    1986年生まれ。横浜出身、札幌在住。編集・執筆、野外フェスの企画・運営などを仕事にするフリーランス。野外フェスの制作オフィス「アースガーデン」で、野外フェスの広報や運営、オウンドメディアの運営や執筆、編集を経験後、独立。野外フェスの最高峰、英国『Glastonbury Festival』には、2019年、2024年、2025年と3回訪れている。

    今年のマーケットエリアの出店一覧はこちら!ぜひチェックして当日足を運んでみましょう。
    【お買い物&ワークショップ】朝霧JAM2025マーケット・ワークショップ一覧

    ここでしか出会えない、朝霧JAMならではのマーケットエリア

    ーー:アースガーデンはフジロックのアヴァロンでも制作や出店管理をされていますよね。いつ頃から関わってるんですか?

    葛原:フジロックだとアヴァロンができたタイミングと聞いているので、苗場2年目の2000年くらいだと思います。朝霧JAMは初回から関わっているようです。アースガーデンは渋谷にオフィスのある野外フェスの制作オフィスで、代表の南兵衛(鈴木幸一氏)がもともと90年代に『楽市楽座』って名前でお茶の水でフリーマーケットをやっていたり、僕も噂でしか聞いたことがないんですけど、『RAINBOW 2000』っていう日本の初期の大型レイヴの中でも伝説になってるイベントの、マーケットエリアの担当をしたりしていたそうです。そういう縁が広がって、フジロックや朝霧JAMにも関わるようになったらしいですよ。

    ーー:初年度から!葛原さんご自身はいつ頃から関わり始めたんですか?

    葛原:僕自身は、2011年からアースガーデンに入社していて、記憶が少し曖昧なんですがその年の朝霧から通っています。当時は、『ap bank fes』とか、主催してた山梨の道志村の『Natural High!』っていうフェスとか、ふもとっぱらでもやってる『GO OUT CAMP』もスタッフとして行ってましたね。数年間、社員として修行したあと、独立してフリーランスになるんですけど、変わらずアースガーデンのいちスタッフとして関わっているフェスがいくつかあります。まぁ、フェス業界の中の、名前も書かれない末席に、ちょこんといるだけです(笑)

    ーー:いやいや、僕らフジロッカーズ・オルグも似たような立場かもしれませんが(笑)。台風やコロナで中止になった年もありましたが、15年くらい関わってるんですね。雰囲気も当時と変わってきていたりするんですか?

    葛原:僕が関わり出した頃は、もう少しヒッピー感のあるフェスだったかな。フィールド・オブ・ヘヴン感というか。マーケットエリアの出店者さんたちも、遊び人みたいな人が多かった気がします。今はヒッピー感というより、ヴィンテージの古着とか、ぬいぐるみやアクセサリーをつくるワークショップなども多いですが、僕がそうしているわけではなくて、お客さんにあわせて応募してくれる出店者さんの雰囲気も自然に変わっていきました。

    何年も朝霧JAMに出店してくださっている「caravan SHANTI SHANTI」さん。厚手のアパレルも持ってきてくれているので、急に寒くなってきたときにお世話になった人も多いのでは。(葛原さんより。photo by fujirockers.org)

    山崎:私は去年はじめて参加したので、昔の雰囲気も気になります!葛原さんが朝霧JAMのマーケットエリアで大切にしていることってなんですか?

    葛原:朝霧JAMが好きな、ここでしか出会えない出店者さんとつくっていくのが大事だと思っています。全国のフェスを旅するように巡っている出店が得意な雑貨屋さんや洋服屋さんも、もちろんなくてはならないありがたい存在ですが、そういう出店者さんだけしかいないとなると、どこのフェスに行っても、同じ人たちが出店している風景になっちゃう。それは、僕は、なんかつまんないなって思うんです。

    ーー:わかります。僕もいくつかフェスのスタッフをしてるんですけど、どう「自分たちはこういうフェスだ!」とアイデンティファイできるのかなと考えることがあって、それはアーティストのラインナップだけではないよなって思います。

    葛原:僕がフリーランスとして関わっている『森、道、市場』は、そういうフェスのマーケットエリアとはちょっと違うんです。多いときは600店舗もの出店が並ぶ巨大な市場なんですが、そこには「森道だから出店する」っていう方が結構多いんですよ。年に一回の森道で、自分にとって本当に大事なお祭りだから、そのために準備や企画をして、ときには仲間と一緒にコラボレーションして、森道でしか実現しないことをする。そんな出店者さんがそれぞれの企画を見て「負けてられない!」とさらに来年はもっとすごい企画を持ってくるっていう連鎖がすごく起きてるんですね。これってたぶん、グラストも一緒なんですよ。個人的には、日本で一番グラストのような熱気を生み出せている場所は、森道なんじゃないかなって思っています。

    『森、道、市場』の様子。ここでしか見ることのできない景色がある。(葛原さんより)

    ーー:この前愛知の『橋の下大盆踊り』(以下、橋の下)に行った時も、同じように感じたかもしれないです。

    葛原:橋の下もきっとそうだと思います。普段の「フェスで見るような人」というより「橋の下だからいる人たち」がいて、その人たちと一緒につくってるから、唯一無二の場所になると思うんです。そんな風にそれぞれが自律的におもしろさをつくっていってくれるといいですよね。そのサイクルをつくるのは簡単なことではないんですが、朝霧はそのパワーがある気がするんですよ。

    山崎:それはどういうところに感じますか?

    葛原:みんなゆったり時間を過ごしてくれるじゃないですか。2ステージで順番にライブがあって、朝も比較的ゆっくりはじまるから結構時間があって、買い物やワークショップにもじっくり取り組める環境だと思うんですよ。そして朝霧らしいブッキングがあって、みんなキャンプしてるのも独特だし、こんなに大きな姿は見たことないってくらいの富士山がドカーンと見えて…。あと個人的には寒さもいいよなってすごく思ってて、朝方は震えるほど寒いけど、それも含めて他のフェスだとなかなか味わえない体験になってるんじゃないかなと。だからこそ他のフェスじゃなくて朝霧JAMが好きな人がいると思うんですよね。

    photo by Takanobu Shiga

    感じたことをふと思い出す、日常に持ち帰るおみやげを

    山崎:昨年も結構マーケットをまわりました。オーガニックコットン100%のジャケットを買ったんですけど、30,000円のものが5,000円に値引きされてて。アップサイクルのエシカルアイテムって高価になりがちに思ってたんですけど、お財布にもありがたかったです(笑)

    葛原:ありがとうございます!商材とかお値段はお店に任せてるので、型落ちとかシーズン落ちしたものを持ってきたり、サンプル品を販売してる人もいるかもしれないですね。

    ーー:いろんな工夫があるんですね。僕は普段からそんなに服を買う方ではないけど、逆に「せっかくだしこだわって買ってみよう」みたいな気持ちに自然となります。

    葛原:それは嬉しいですね。そういう意味ではおみやげというか、日々の生活の中に思い出や感じたことが溶け込んでくといいなと思っていて。朝霧で得られる経験って本当にかけがえがないじゃないですか。実は以前アースガーデンのフリーペーパーの取材で津田大介さんに取材をしたことがあって。

    ーー:おお、今年もアヴァロンのトークを聞きました。

    葛原:津田さんはナタリーの立ち上げ人でフジロックにもずっと通っていて、実はめちゃくちゃ音楽の人なんですが、津田さんに「フェスティバルってなんだ?」ってテーマでインタビューをしたことがあって。その時に「フェスはどう過ごしても良いという自由度が魅力で、日頃の不自由から抜け出す開放感は大きなパワーになっている。でも本当に楽しくしなきゃいけないのは、地元に戻ったあとの日常じゃないか」みたいな話をしてもらったんですよ。日常が不自由だからこんなに楽しいんだったら、日常が自由になればもっと楽しいじゃん、人生。みたいな。

    アトミックカフェトークの津田大介さん(photo by 平川啓子)

    山崎:言われてみると確かに…。

    葛原:この話を聞いてから、フェスがそれ以外の日々に影響したり、溶け込んだりしていくことが大事だよねって改めて思ったんですよ。フェスで知ったことや感じたことって簡単に忘れちゃうと思うので、日常的にあるものとして身の回りにあると、朝霧のことをちょっと思い出したりできるかなって。

    ーー:買った服を着たり、つくったものが普段仕事をするデスクにあったりすると、少し気分も違ってきますよね。「フェスは非日常」みたいによく言いますけど、それを日常と切り離されたものとしちゃうのはなんだか違和感もあって。

    葛原:少しでもその人の日常を幸せにするものであったらいいですよね。とはいえ実際に現地に行っちゃえば主役は出店者さんなので、僕らは出店者さんが気持ちよく商売できる環境を整えて、あとは「この人たちならきっとお客さんたちにいろんな思い出を残してくれるでしょう」って思ってます。信頼している出店者さんしかいないので。

    ーー:素敵な信頼関係ですね。葛原さんご自身はどういう動きをしているんですか?

    葛原:僕はこの何年かは木曜日に現場に入って、「墨出し」っていうんですけど、「この出店者さんはここに出店します」みたいなことを地面に印をつけてくんですよね。それを木曜日の午後からRAINBOW STAGEでざっくりやります。金曜日はMOONSHINE STAGEの方の墨出しをして、午後から出店者さんが搬入して、日没くらいまでで大体出店者さんが入り切るって感じですね。朝霧の場合は出店管理のスタッフもキャンプをしてるので、テントを張って夜は自分達でシチューをつくったりBBQしたりしてます。

    レインボーステージのマーケット。実は、フジロックのアヴァロンの森の中に出店しているチームが盛り上げている。フジロックのアヴァロンも、朝霧のマーケットも、アースガーデンがコーディネートしているので、そのつながりは密かに意識している。(葛原さんより)

    山崎:楽しそう!

    葛原:途中の道の駅でソーセージを買って焼いたりしてるし、僕らも本当に楽しいんですよ(笑)。当日は出店者さんとコミュニケーションをとることがメインで、新規の方だったら「もうちょっとこうしたらアピールできそう」とか「ちょっとお店の中に入りづらいので、入り口のこの棚をこうしたらどうでしょう?」みたいにアドバイスをすることもあります。常連さんだったら「今年はどうですか?」とか様子を聞きに行ったり。

    ーー:密にコミュニケーションをとるんですね。

    葛原:それで改善できるところは改善して、少しでも気持ちのいい環境を整えます。2日目はムーンシャインのマッサージ屋さんのヨガから始まって、終演後はその日中に搬出する出店者さんもいるので、その日に帰る出店者さんが全員出るまではずっと見守っています。月曜日もお店の人の搬出を見守りつつ、ムーンシャインエリアのゴミ拾いとかを最後にして、お昼過ぎぐらいに僕らも帰るって感じですね。

    山崎:結構忙しそうですね。

    葛原:でもフジロックほど大きくないしごみごみもしていないので、スタッフも楽しんでるんですよ。朝霧JAMS’のボランティアのみなさんもそうだし、フェスの運営本部も少人数でやってるので、気持ち的にはみんな穏やかだと思うんですよね。あとアースガーデンの出店管理本部は、ムーンシャインの音がめちゃくちゃよく聞こえるので、僕らも楽しみながら仕事をしてます。

    ムーンシャインのマーケットエリアは、ズラッと一列に並んでいる。この商店街感も好きなところ。ぜひたくさん買い物してください。(葛原さんより)

    寒さも魅力!不思議なゆとりの中で過ごすかけがえのない体験

    ーー:僕や山崎さんも取材で行くので仕事ではあるんですけど、朝霧JAMは変に急かされない不思議なゆとりがありますよね。それほどタイムテーブルに余裕があるかといったらそうでもない気もするんですけど、なんなんですかね?やっぱり環境?

    山崎:私は『RISING SUN ROCK FESTIVAL』とかでもキャンプをするんですが、朝霧JAMの雰囲気は他のフェスで感じたことがなくて。夜のキャンプでも自分の内面とか人生観みたいな普段話さないことを話したりしてて、ここだから喋れたのかなってちょっと思い出しました。

    葛原:夜には音が止まるから特別な時間になるんじゃないかと思います。フジロックやライジングだと夜通しやってて夜も忙しいけど、朝霧だと適度な時間に音が止まって、でも飲み足りないし遊び足りないし、それに寒いし。なんかそういう雰囲気になりますよね。

    ーー:夏の開放感とはまた違うものがありますよね。ちなみに寒いのがいいっていうのは、どういうところに感じてますか?僕も東北出身なのでなんとなくわかるんですけど。

    葛原:そもそも暑いより寒い方が好きだから札幌に引っ越したんですよ(笑)。寒さっていいじゃないですか。ちょっとエモいでしょ。

    photo by fujirockers.org

    ーー:わかります(笑)。みんな寒いのがつらいと言うし対策も必要だけど、確かに寒さもあの雰囲気をつくっているなと思いました。

    山崎:空気が澄んでるから、天気が良ければ星がたくさん見えるのもいいですよね。私は生まれも育ちも札幌だから寒いのは慣れてるなと思って、ちょっと舐めててダウンも持ってなかったので、「これほどまでとは!」って感じたんですよ。だから凍え続けてたんですけど、焚き火を囲みながら深夜3時くらいにチキンラーメンをつくって、鍋ごとみんなでつついたのがあったかい思い出です。寒いけどあったかい。

    ーー:いいですよね。今年もそういう時間が楽しみだなあ。葛原さんは朝霧JAMで特に印象に残っていることってありますか?

    葛原:印象に残っているというか、毎年心のなかで、お客さんが羨ましいなぁって思っています。例えば、朝霧に来たことがある人はわかると思うんですが、場内でテントを張る人ってそれなりに長い時間、砂利道を通るじゃないですか。あの砂利道で、カートを壊しちゃう人が結構いるんです。荷物を入れすぎたり、構造が弱いカートを選んでいたりすることが原因だと思うんですけど。そうすると、重い荷物を手で運ばなきゃいけないんですよね。あれ、めちゃくちゃ大変だと思うんです。大変だと思うけど、その大変さってあとから振り返ったときに、良い思い出になるじゃないですか。そういう瞬間の積み重ねが、朝霧の体験になり、思い出になるだろうなって。

    ーー:なんというか葛原さんらしい視点ですね。

    葛原:今年のフジロックで2日目に土砂降りの雨が降って、オシャレな格好をした若者がずぶ濡れになってたんですよ。あの瞬間はさすがに辛かっただろうけど、でも今は確実にめちゃめちゃ楽しい思い出になってるじゃないですか。懲りずに、来年もまた思いっきりオシャレをしてフジロックに来てほしい。朝霧でも「大変さも含めて、それぞれいろんな思い出を持ち帰るんだろうな」ってことを思いながら、いつもあの砂利道を眺めています。これって、僕みたいにフェスが日常になっている人には、今さら体験できないことなんですよね。だから、羨ましいなって思うんです。嫌味じゃないですからね(笑)

    山崎:わかりますよ(笑)。辛かったことも思い出になりますよね。

    葛原:あと余裕がある時間帯は会場を回ったりしているんですが、2014年に大トリでTHA BLUE HERBが出演して、“ILL-BEATNIK”っていう冥王星に呼びかける曲をやったんですよね。ちょうどレインボーを歩いているときにあの曲が始まって、あの瞬間は「本当に冥王星に聞こえるかもしれない」って思った。震えたなあ。あの時のことをめっちゃ覚えてる。

    THA BLUE HERB@朝霧JAM 2014(photo by Taio Konishi)

    photo by Masahiro Saito

    ーー:おお…。想像しただけでゾクゾクします。朝霧の環境だからこそ、僕らの気持ちともつながるものがあるだろうなあ。ちなみに今年楽しみなライブってあったりします?

    葛原:ムーンシャインの方だと小袋さん(Nariaki Obukuro)のDJかな。彼はJ-WAVEで『Flip Side Planet』っていう番組をずっとやってるんですけど、その選曲もめちゃめちゃ良くて。すごく楽しいんじゃないかな。

    山崎:そう聞くととても楽しみになります!

    葛原:ただ同じ時間にGLASS BEAMSが被ってて。

    ーー:ぎゃー!すごい被せ方をしましたね…。

    葛原:GLASS BEAMSは今年のグラストで、人生初の最前列で観たんですよ。一緒に行った人がその前のカトパコ(CA7RIEL & Paco Amoroso)から最前列で観たいって言うからついて行ったんですけど、ただでさえサイケでブリブリなサウンドをとんでもない大音量で鳴らしてて、音にまみれたって感じでした。最前列ってこんなに楽しいんだなって思いましたね。ステージのスペック的にあんな大きな音は出せないと思うんですけど、朝霧JAMで観るのもとても楽しみです。

    Glass Beams – Mahal (Glastonbury 2025)

     

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