スマッシュ高崎氏インタビュー(後編)~誰も予想がつかなかった今年のヘッドライナー~
- 2022/06/22 ● Interview
ステージ割が発表され、今年のフジロックがだいたい見えてきたのではないでしょうか。そして、観たいアーティストのかぶりに悩む時期に入ってきましね。スマッシュ高崎さんのインタビュー後編では、ヘッドライナーを含めて海外勢の話をメインに、今年のブッキングについての話をお届けしますので、マイタイムテーブルを考える際にも参考にしていただければ幸いです。異例のサプライズ発表となったコーネリアスの出演についても触れています。それでは後編をどうぞ。
(前編はこちら)
主催者でさえも誰に決まるのか全く予想できなかったヘッドライナー
─ ヘッドライナーについてまずはお聞きします。今年の3組はどのように決まったのでしょうか。
高崎さん:出演アーティストの第1弾発表をする前や、発表した後にSNSをチェックしていて「予想が外れた」っていう声がわりとありましたが、当たり前の反応だと思っています。多分、誰も今年のトリについては当てられなかったんじゃないかなと。
先ほどお話しした通り、今年の海外勢のブッキングはスムーズにいかないことが多く、途中で交渉が成立しなくなったケースも少なくないので、今年のヘッドライナーについては最終的に誰に決まるのか、うちのスタッフですら誰も予想がついてなかったというのが正直なところです。主催者側でさえも誰に決まるのか全く見えない状況でした。
─ それくらい、例年に比べて海外勢をブッキングすることがスムーズにいかなかったのですね。
高崎さん:そうですね。色々やりくりしました。結果的にフジロックらしいラインナップになったなとは思います。ヘッドライナーを誰にしようか、という話は昨年の内からしていて、様々なアーティストと交渉をしながら今年のブッキングを組み立てていく中、ようやく決まったヘッドライナーが、ジャック・ホワイトとホールジーです。
例年のラインナップからすると少し異色なホールジー
─ 海外フェスだとメインどころのアーティストとしてブッキングされていますが、日本では海外と比べるとまだ知名度がそこまで高くはない印象もあって、個人的には意外でした。一番みんなが予想してなかったヘッドライナーなのではと思います。けっこうポップなので、2019年のシーアみたいな枠ということなのでしょうか。
高崎さん:ホールジーは2020年に来日公演の予定がありましたが、コロナ禍の影響で中止になってしまって。フジロックの出演アーティストを考えた時に、トリでこういう切り口もアリだと考えて、ヘッドライナーの出演の交渉をしてみようという流れになりました。
確かに、ホールジーは例年のラインナップからすると、ちょっと異色だとは思います。シーアとも少し毛色が違うので。だから、ホールジーがフジロックのお客さんにどこまで受け入れられるかは正直わからない部分もありますが、きっと楽しんでもらえると思います。
それから、ホールジーに限ったことではないのですが、たまに「え?これフジロックなの!?」って思うアーティストがラインナップされることもあるかと思うんです。2019年を例に挙げると「マーティン・ギャリックス?」「シーア?」みたいな。でも、ライブが終わってお客さんの感想をチェックしていると「良かった!」っていう声も実際多くて。
─ 確かに、特に2019年シーアのステージは本当に圧倒されたので、生で体験することができて本当に良かったと思います。えげつない土砂降りでしたが(笑)。
高崎さん:生でライブを聴く・観るというのは、音源を聴くのとはまた違う特別な体験ですよね。
ホールジーは、ちょっとポップスのイメージがあるかと思いますが、海外では売れているアーティストなので、色眼鏡で見ずに、純粋にライブを観てもらえば楽しんでもらえると思っています。
必ずしも出演アーティスト全てが、フジロックっぽくなるのも僕は違うと考えていて。僕は、ガチガチのフジロックっていう観点からは少しズレているので。せっかくフェスなのだから、色々なアーティストを観てみましょうよ、っていうスタンスです。あまり興味がなかったとしても、会場でライブを観たら変わることって実際にあると思いますし。
─ そうですね。もし、よく知らなかったとしても、フジロックのヘッドライナーとして選ばれたアーティストという時点で、ライブが良くないわけがない、とは思っています。
高崎さん:そうですね。それから、フジロックの会場って、アーティストの実力が100だとしたら、お客さんがいることで、120になると思っています。お客さんの反応で、もっと良いライブにしたい!とアーティストが思ってくれる場所だと思うので、楽しんでもらえるライブになると思いますよ。
フジロックらしいヘッドライナー
─ ジャック・ホワイト名義では2回目の出演になりますが、ザ・ホワイト・ストライプスやザ・ラカンターズで過去に出ているので、ヘッドライナーの並びを見た時に、一番「ザ・フジロック」だなと思いました。
高崎さん:そうですね。まあ、フジロックらしいアーティストですよね。
ジャック・ホワイトは、みんな好きだと思いますし、名義は違っていても何度も出演しているのでフジロックのイメージは強いと思っています。かきむしるようなギターのノイズを聴きたいですよね。ヘッドライナーとして間違いないアーティストだと思います。
─ そんなフジロックらしいジャック・ホワイトですが、今年でなくても、ヘッドライナーとして出てもらいたいという考えは以前からあったのでしょうか?
高崎さん:実は、ジャック・ホワイトの単独公演をやる話が先にありました。スケジュールを確認していく中で、フジロックのタイミングが合うことがわかったので、ヘッドライナーとして出演していただく形で決まりました。
─ そうだったんですね。ジャック・ホワイトの単独公演もぜひ実現できることを願っています。
最後にようやく決まった金曜のトリ
─ 次はバンパイア・ウィークエンドについてお聞きします。第1弾では金曜のヘッドライナーが発表されなかったですが、これはバンパイア・ウィークエンドの発表を第2弾にとっておいたということなのでしょうか。
高崎さん:そんな余裕はないですよ(笑)。
単純に、土曜と日曜のヘッドライナーである、ジャック・ホワイトとホールジーが先に決定していて、金曜のヘッドライナーについては第1弾の発表時点でまだ決まっていませんでした。
金曜に出演してもらうアーティストのセレクションを進めている時に、バンパイア・ウィークエンドのスケジュールが合いそうなことがわかり、ヘッドライナーとして出演していただくことになったという経緯です。
2018年ボブ・ディランが出演した日に、セカンドヘッドライナーとしてグリーンステージに出てもらっているので、バンパイア・ウィークエンドもフジロックらしいアーティストですよね。
知らないアーティストに出演してもらうなら尖っている方が絶対面白い
─ インパクトが強すぎて気になっているアーティストがいまして。インドのブラッディ・ウッドなのですが。
高崎さん:キワモノ系ですよね(笑)。
─ このブラッディ・ウッドというアーティストは、どうやって見つけてきたのでしょうか。
高崎さん:最初は、海外から売り込みがありました。
それで音源を聴いてみたら面白いし、「インド」と「メタル」っていうフジロックとは少し遠いキーワードに逆に興味を持ちました。みんなが知らないアーティストに出演してもらうなら、尖っている方が絶対面白い!と思って。僕だけじゃなく、もう1人のディレクターも気に入ってくれたので、じゃあフジロックでやりましょう、ということになりました。
アーティストのセレクションのやり方として、ちょっと異質なものが入っている方が、フェスとして面白いですし。知らないから全く予想がつかないからこそ、ライブでいいマジックが生まれるんじゃないかなと思っています。
─ エッジの加減と言えばいいのでしょうか、突き抜け感はフジロックっぽいなと思いました。
高崎さん:そうですね。たまに、あるやつです。何これ!?っていう(笑)。
─ (笑)。フジロックのお客さんだからこそ、尖るほど興味をもってくれそうな気はしています。知らないから観ない、ではなくて、よく知らないけど面白そう!っていうノリで、ライブが良かったら大盛り上がり、みたいな。全く知らないアーティストのライブを観る楽しさというのは本当にフジロックに教えてもらいました。
高崎さん:そうですね。興味を持ってもらえたら嬉しいです。
まだ日本ではほとんど知られていないですが、イギリスやヨーロッパではツアーをやったりしています。なので、ジワっとアンダーグラウンドでは聴かれていて、ちょっと注目されているアーティストではあるんですよ。
音的にはフジロックらしくない、ちょっと異質なものにはなるかと思いますが、フェスだからこそのブッキングなので、朝少し早いけど、ぜひ観に来てください!
─ 朝から濃い時間になりそうですね(笑)。
2020年のラインナップ発表時にも注目を集めていたアルトゥン・ギュンが今年ついに苗場へ
─ 異色つながりでいくと、2020年のラインナップにあったアルトゥン・ギュンが今年出ますね!
高崎さん:これは担当ディレクターの熱意で決まりました。今年アルトゥン・ギュンを絶対に入れたい!っていう。2020年に出演予定だったので、当時、ハライチの澤部さんがテレビでフジロックの話をしている時に「アルトゥン・ギュン」ってずっと言っていて、その印象がいまだ強いですね(笑)。
─ (笑)。今年も連呼する姿を期待してしまいます。澤部さんには今年こそアルトゥン・ギュンのライブを楽しんでいただけるとうれしいですね。
フジロックらしくないと思われるアーティストも見せていきたい
─ YOASOBIの出演決定について「意外!」という声もけっこうありますよね。
高崎さん:ありますね。これは個人的な意見ですが、YOASOBIは子供も知っているアーティストという点でもフジロックに出演していただけて嬉しいです。お客さんの層も変化してきて、最近はファミリーも多くて、こどもフジロッカーも増えてきているので、親子で楽しめるアーティストだと思います。うちの娘も家でYOASOBIの曲をよく歌っていますよ。
フジロックらしいという観点でみたら、違うと感じる人もいるかもしれないけど、ライブを観るお客さんの反応がどうなるのかは気になりますね。フジロックも今年で25周年になるので、初期の頃と比べて今は色々な音楽があっていいと個人的には思っています。
それから、フジロックのイメージが固まり過ぎている気もするので、僕としては、フジロックらしくないと思われるアーティストも見せていきたいなと。僕はどちらかというと、サマーソニックに出そうなアーティストのセレクションが多かったりするので。まあ、これは難しいところでもあるのですが。2019年のインタビューでもお話した通り、社内のディレクター同士でも音楽の好みは合わないですから(笑)。
でも、社員1人1人が考えているフジロックがあって、そこは踏み外さず、お互い理解した上でアーティストのセレクションはしていますよ。「このアーティストはアリじゃないか」という観点はディレクターによってバラバラでも、フジロックをよくしたい想いはみんな一緒ですからね。日高イズムというか、日高の考えや想いをみんなわかっている上でのディレクターによるセレクションの集合体がフジロックなんです。
クリエイティブマンとスマッシュの2社でコーネリアスを応援
─ コーネリアスの出演発表はサプライズでしたね。ソニックマニアへの出演発表も同じ日にあって。
高崎さん:昨年の東京オリンピックの件やフジロック出演がキャンセルになった経緯があり、クリエイティブマンの清水社長と、うちの社長の小川が話し合って、2社でコーネリアスを応援したいということになり、今年は両フェスに出演いただきます。出演発表は同じタイミングにしようと決めて、5/25にフジロック出演とソニックマニア出演を発表しました。
─ 本当に嬉しい発表でした。同じ年にフジロックとソニックマニアに出演することって、通常はないかと思うのですが。
高崎さん:そうですね。同じ年にフジロックとソニックマニアまたはサマーソニックに出演することは、非常にレアなケースだと思います。今回は、クリエイティブマンとしても、スマッシュとしても、コーネリアスを応援しようということで、異例にはなりますが同じ年に出演いただくことになります。
─ 昨年、悩みぬいた末に出演を辞退された折坂悠太さんが、今年の第1弾で発表されたこともすごく嬉しかったです。
高崎さん:昨年は、アーティストを含めて様々な立場の方の色々な判断があったと思います。その考え方の多様性は全てリスペクトするべきだと思います。判断した結果について、それが、良い・悪いということはではないですから。様々な判断を受け入れるのがフジロックだと思っています。
アジア勢のセレクトについて
─ 毎年、台湾や韓国などアジアの注目アーティストも数組出演していますが、これは同じアジアということもあってフジロックとして意識的にセレクトされているのでしょうか。
高崎さん:入れなきゃいけないとか特にそういう方針があるわけではないですよ。アジア系のアーティストに詳しいディレクターがいるので、良いアーティストを毎年何組かセレクトしているという感じですね。
高崎さんに聞く今年の注目アーティスト
─ ちなみに、ヘッドライナー以外で高崎さんが個人的に2022年のタイミングで特に観て欲しい海外アーティストをお聞きしてもよろしいでしょうか。
高崎さん:どのアーティストもちろん観ていただきたいですが、強いて挙げるなら、大注目の新人系でいくとアーロ・パークス、ブラック・プーマズ。ジャム系でいくとドーズ。ムラ・マサ、トム・ミッシュは言わずもがなという感じでしょうか。あくまで個人的な意見になりますが。
それから、コーチェラにも出演したザ・フーや、異色のブラッディ・ウッドは、フェスならではセレクションなので、早めの時間ですけどぜひみんなに観てもらいたいですね。目が覚めると思います(笑)。
予想以上の反響があった角野隼斗
高崎さん:それから、海外勢ではないのですが、第1弾のラインナップ発表で「ビックリした」っていう驚きの声も多くて、予想以上に反響が大きかった角野隼斗も注目度の高いアーティストなので、ぜひチェックしていただければと思います。
─ 角野さんは、まさかフジロックで観ることができるとは思っていなかったです。QUEENの『WE WILL ROCK YOU』のジャズアレンジをピアノとカホンで演奏する動画は何度も視聴していますし、YOASOBIの『夜に駆ける』のアレンジを初めて聴いた時は鳥肌が立ちました。クラシックからインディアン・フォーク・メタルまで、フジロックに出演するアーティストの幅の広さは改めてすごいなと思います。
高崎さん:フェスですからね。普段はあまり聴かないジャンルでも、フジロックに来てもらったからには色々な音楽に触れてみて欲しいです。新しい発見や感動があるかもしれないし、というかそうなってもらえたら嬉しいですね。それがフェスの醍醐味だと思うので。やっぱり、苗場のあの会場で聴くライブだからこそ感じることができるものってあると思いますし。
とにかく、少しでも気になったアーティストは観ていただいて、フジロックを思う存分に楽しんでもらいたいですね。
以上、高崎氏インタビューの後編でした。前編の中で今年の海外勢のブッキングが難航したことを話していただきましたが、ヘッドライナーが誰になるのか見えないほどの状況だったことを聞いて、改めてその難しさが伝わってきました。コロナ禍に入ってから、2020年はフジロックの開催がなく、2021年は日本のアーティストのみで開催したことを振り返ると、今年やっと海外アーティストを観ることができるありがたみを改めて感じています。フジロックまで残すところ約1か月!タイムテーブルの発表が待ち遠しいですね!
◆スマッシュ高崎氏インタビュー(前編)~今年はどこまでいつものフジロックに戻るのか~
Interview & Text by Eriko Kondo
Photo by 平川啓子
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