• 我到家了!搖滾台中 ~台湾のロック・フェスに行きたいわん Vol.3~

    *第二天*

     朝からホテルの近くのカフェでまったりしながら、昨日の写真やメモを整理する。日曜日ということもあって、店内は教科書やノートパソコンを広げた学生や親子連れで徐々に混みあってくる。中美街 Zhong mei jie 夜市で早めの昼食をとってから、地元民で混みあった市場を散策。すでに太陽が頭上近くにまで昇り、Tシャツに玉のように汗染みが浮きでる。ホテルでシャワーを浴びてから、正午すぎに、大通りから川沿いの路地を少し入った場所にあるホテルのまえで運よくタクシーをひろえて、5分ほどで会場の《文心森林公園 Wen xin senlin gongyuan》に到着。

     駐車場に設られた《跳躍舞台 Jump Stage》で〈装咖人 Tsng-kha-lâng〉。Vo./アコギ/チャルメラに、ギター、ベース、ドラム、それに月琴という構成。海峡を越えて台湾島にわたってきた漢民族の伝統音楽・北管楽(対して中国大陸側の泉州、廈門の閩南(びんなん)地域の伝統音楽を「南管」という)と、台湾東部の民族音楽や民話を基にしたフォーク・ロック。去年、大きな地震被害を受けた花連県にある国立東華大学で結成され、Vo.の張嘉祥 Tiunn Ka-siông は執筆した小説が台湾の文学賞を受賞しているのだとか。台湾人作家の呉明益 Wu mingyi が近年、やはり東部の原住民(※台湾では公称として「原住民」を使用するが、字義どおり”Originaly Residents”という意味)のフォークロアを題材にしたマジック・リアリズム的な小説を相次いで発表して世界的に評価されているし、この「気取った人」という名のフォークロック・バンドも興味深い。

     今日は《Rookie A Go Go Stage》となった昨日の《緑色舞台 Green Stage》で〈我是機車少女 iʼmdifficult〉。東京・青山のライブハウス〈月見ル君想フ〉のアジアのインディーズに特化したレーベル《Big Romantic Records》からLPと7インチがリリースされていて、CDも日本からオンラインで入手しやすく、事前に音源をもっていたバンドで、《搖滾台中 Rock in Taichung 2025》でぜひとも観たかったアーティストの1つ。爽やかで内省的なシティ・ポップ風味が特徴だけれど、台北ではネオ・ソウルのシーンとして注目されているのだとか。「Last Summer(月亮惹的禍)」ではのびやかなVo./KeyのErnestの歌声にあわせて、観客も合唱を重ね、ほどよく泣いたギターが小気味のよい合いの手を入れる。ベースはサンプラー音源を鍵盤で弾いているようだけれど、ドラムもふくめてグルーヴ感が増せばさらによい感じ。

     《跳躍舞台》にもどって〈農村武装青年 Nongcun wuzhuang qingnian〉。マオイズム剥きだしみたいな名前だけれど、蒋介石・蒋経国親子の国民党独裁の白色テロの時代、無数の共産主義者や民族主義者、民主派、台湾独立派が投獄、処刑されている暗い歴史がある。2009年から活動し、社会運動や地域の抗議活動にも積極的にコミットしているというから、英国のアナーキスト集団Chumbawambaと似たような成り立ちや活動なんだろうか。 アコギにベースとドラム、それにチェロとジャンベが入っていて、音は過激さとは正反対のカラッとした民族歌謡。田舎の街角でのど自慢の地べのおやじがカラオケで歌っていそうな、朗々とした、妙な懐かしさ。この日のメインステージの大トリは”台湾のMumford & Sons”こと〈老王樂隊 Raowan Band〉。民族音楽的な流れが今日のテーマのあるのかな。

     その〈農村武装青年〉を観ていたら、《能量舞台 Energy Stage》からヤバい音が轟いてきてすぐに移動した〈當代電影大師 Modern Cinema Master〉。エクスペリメンタルかつどこかひねくれたエモ/オルタナティヴ・ロックで、強引に喩えるなら、eastern youthがBlurやArctic Monkeysを演奏しているみたい? Vo./G.の声もデーモン・アルバーンにちょっと似ている。2019年にデビューして、2021年に台湾版グラミー賞の金曲賞新人賞を受賞、去年2枚目のアルバムをリリースと。《搖滾台中 Rock in Taichung》でいちばんの発見かも。帰国するまでにぜひ音源を探さないと。

     〈溫蒂漫步 Wendy Wander〉は去年に続きメインステージの《能量舞台》に。去年は中国ツアーや日本ツアーを成功させ、この《搖滾台中 Rock in Taichung 2025》直後にも大分〈いい湯だな〉と東京での公演も予定していて、デビュー数年ですっかり台湾インディーズを代表するバンドになった感。いまどきの若いバンドには珍しく、シーケンサーを多用せずにサポートのミュージシャンを招いて、きちんと生音で演奏しているのには好感がもてる。80ʼsニューウェーブに影響された音にもかかわらず。シティ・ポップをセンスよく咀嚼した2020年発表の初作から、一昨年リリースされたセカンド・アルバムではディスコ/ソウルを大胆に引用して、この日のステージでも、観客が輪になってぐるぐるとまわったりタオルを振りまわして飛び跳ねたり、「これぞ湾流ロック」という盛りあがり。

     《Rookie A Go Go Stage》で日本から〈ANORK!〉。ちょうど観にきたときに演奏していた曲でヴォーカルにオートチューンをかけていて、「いまどきか」と思ったけれど、疾走感と浮遊感のあるエフェクティヴなギターの音像に惹きこまれてしまった。蒼さと甘酸っぱさになんとなく〈透明雑誌 Touming Magazine〉を想起したのだけれど、そういえば〈透明雑誌〉にも「ANORAK」という曲があったっけ。裏が〈溫蒂漫步〉、〈芒果醬 Mango Jump〉と台湾の人気バンドにはさまれて、少し不利なタイムテーブル。観客のなかにフジロックのTシャツを着た人を数人見かけて、熱心に演奏に観いっていたのが印象的だった。メンバーはシャイなのか、文字どおり「靴を見つめる人」と化していてMCも控えめだったのだが、もっと積極的にコミュニケーションをとれば、たぶんもっと盛りあがったのに。

     《跳躍舞台》で〈忘憂水 WonderWater〉。〈康士坦的變化 KST〉のG.と〈血肉果汁機 Fresh Juicer〉のDr.らが新たに結成したという、ドゥーム・メタル/ストーナー・ロック・バンド。ダウナーなONE OK ROCK(語彙力…)? そのあと《衝撃舞台 Smash Stage》でシンガポールの〈Goose 我鳥〉。華僑系なんだろうか中国語の歌詞で、爽やかな歌ものシューゲイザー。それから《Rookie A Go Go Stage》で〈HOME〉をチラ見。沖縄出身と。琉球ディスコのキラキラ感から沖縄要素をのぞいて、EDM世代のいまどきのエモい打ち込みロックにした感じかな。グラム・ロックな耽美的な要素も。

     〈憂憂 Yō-Yō〉は今年の《大港開唱 Megaport Festival》で虜になった、イチ推しの”湾流”バンド。台湾インディ・シーンのネクスト・レベル(※個人の感想です)。この〈憂憂〉と〈老王樂隊〉を観るためにわざわざ日本から来た、といっても過言ではないくらい。去年の秋にデビューEPを発表したばかりで、4つあるステージのなかでもいちばん小さな《衝撃舞台》に登場したのが、もったいないというかお得というか。往時の台湾歌謡の旋律に、ときおり激しく転調する、レイドバックしたオルタナ・サウンド。「河床」はVo.のHolyがメコン川を下ったときの情景というだけあって、汎アジア的な趣きも。Holyは自身の歌声にエフェクターでコーラスやリバーヴをかけたり、トイ系のパーカッションをとりそろえたりと、アナログな、遊び心の延長線上にある感じがよい。紅一点のB.の嘟嘟 Du du は、他のメンバーにからんで笑いをとったりヨーヨーをとりだして技を披露したりと、ムードメーカーながら、なにげなくチョッパーを繰り出し演奏もしっかりしている。

     夕食のために中座して、近くの《恩徳元餃子館》に20時の閉店まえに駆けこんで英気を養ってから、早めに《能量舞台》に入場して《搖滾台中 Rock in Taichung 2025》の大トリ!台湾のMumford & Sonsこと〈老王樂隊 Raowan Band〉を正座待機。ステージまえのスタンディング・エリアのすぐうしろのかなり前方の座席に陣取ってはみたものの、すり鉢状のコンクリートに囲まれ、まだまだ日中の熱気がこもっていて、たまらずに風の抜ける後方の座席へと撤退する。ほとんど風通しのないスタンディング・エリアでまつ観客の熱心さには、ただただ頭が下がる。

     アコースティック・ギターが主だけあって、転換とサウンドチェックも入念に1時間以上かけ、少し押してスタート。〈憂憂〉が台湾から大陸の南方への眼差しなら、〈老王樂隊〉は大陸の北西か。メンバーに女性のチェリストがいて遊牧民的な調べも、〈憂憂〉とおなじく無国籍でユニーク。民謡や古典音楽とフォーク・ロックを独自の世界観で演奏する。2017年にデビューEPを発表すると、学校教育や学歴社会の矛盾を皮肉った歌詞が、とくに若者たちのあいだで熱狂的に支持されたのだとか。「安九」「我還年輕 我還年輕」などゆったりと起伏のゆるやかな曲にもかかわらず、初っ端から大合唱と大歓声、渦を巻いたり飛び跳ねたりと、観客の盛りあがり方がこれまたいかにも湾流ロック。途中からヴォーカル・マイクにかなりのノイズが出るトラブルもどこ吹く風、見事大トリの大役を務めあげた。ちなみに「老王」とは「間男」のことなんだとか。

     これで《搖滾台中 Rock in Taichung 2025》の全公演が終了。ホテルまでのひたすらの一本道を、タクシーを拾うタイミングがあわずに歩いて帰ったのだが、すっかり静まりかえったマンションや住宅、とうに閉まっている店舗が濃密な群青色の夜に溶けこんでいる。街灯とところどころの看板の電飾と、交差点のたびにある信号が唯一の灯火。そんな景色に妙に淋しさばかり募る。心だけがまだソワソワと、素敵な音楽の余韻に浸ったまま。終わって 10 分も経たずに強烈なロスだ…どうしたもんかな。四の五のいっても一歩、一歩、歩いていくしかないのだけれど。

     

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