我到家了!搖滾台中 ~台湾のロック・フェスに行きたいわん Vol.3~
- 2025/12/10 ● REPORT

*唱片䮽掘*
3月末の《大港開唱 Megaport Festival》の余韻がまだまだ尾を引くなか、6月に〈ゲシュタルト乙女 Gestalt Girl〉のMikan Hayashiの弾き語りツアー、7月にフジロック・フェスティバルでの〈혁오 Hyukoh × 落日飛車 Sunset Rollercoaster〉の話題となったコラボレーション、9月に〈滅火器 Fire EX.〉の結成25周年記念ツアー、そして10月初旬の〈DSPS〉と〈海豚刑警 イルカポリス〉の2マン来日ツアーと、幸運なことに、日本にいながら”湾流ロック”の熱を目の当たりにできた。そして、長いようであっというまの1年が経ち、もういくつ寝ると《搖滾台中 Rock in Taichung》だ。
《搖滾台中》ではアレを観て、レコード買って、コレ食べて…早く来い来い、と前回の経験と反省も踏まえて準備に勤しむ日々。去年は曇天で比較的過ごしやかったけれど、今年はまだまだ酷暑の予報。歩きやすいサンダルと洗ってすぐに乾く帽子は必須。サンダル履きでも雨に備えて防水ソックスも欠かせない。結局、現地での滞在費以上に、いつも準備のほうに出費が嵩んでいる。おまけに今回は、新発売されたばかりのEarPods Pro 3のライブ翻訳機能を試そうと道頓堀に飛びこむ勢いで購入したのに、なんと、10月の時点ではまだ中国語は未対応だと。
気持ちばかりはやるのは毎回おなじで、成長の兆しがない。でもHoka one oneのサンダルは、〈イルカポリス〉の伍悅 Wu Yue ちゃんと色ちがいのおそろいで、「あーっ、台湾にない色!日本で買ったの?」と羨ましがられたから(はい、イルカ色です)、出費の甲斐があったというもの。人間の自尊心なんてそんなものだ。その〈イルカポリス〉は「命懸けでやってます!」というMCが伊達じゃないほど全力疾走。ポップでキッチュな音源以上にフリーキーでプログレッシヴなポスト・ロックで、アイコニックで自由奔放なVo./G.の伍悅はカリスマ性すら感じさせるほど。フジロックなら《レッド・マーキー》がはまりそう。
閑話休題。《搖滾台中》は今年もフジロック・フェスティバルの《Rookie A Go Go》とコラボレーション。《Rookie》に出演した日本のバンドが《搖滾台中》のステージに立つ。対して、今年のフジロックの《Rookie A Go Go》には台湾から〈震樂堂〉が出演している。去年は10月末に開催されたが、今年は2週目の3連休の週末、おまけに台湾も雙十節(国慶節)で3連休ということもあってか、当初予定していた金曜か土曜に渡台して月曜に帰国する日程だと、フライト代が6~7万円とかなり割高に。それなら向こうで1泊したほうが安いな、と木曜から月曜までの4泊5日にすることに。今回の旅ではフェスはもちろん、日本では手に入らないレコードやCDを掘りまくりたい!と渇望が溜まりに溜まっていたこともあって、日程に余裕ができるのは嬉しい。で、旅行アプリでLCC各社の便を組み合わせて比較して、なんと、往復3万6千円弱のフライトを予約できてしまった。これには当日、実際にチェックインするまで半信半疑になってしまうほど。

そんなフライトは、心配されていた台風22号の影響もなく無事到着したけれど、1時間ほど遅延して、税関を通過したころには現地時間では15時まえ。家での朝食のほかになにも食べていなかったので、桃園国際空港の混みあったフードコートでカフェオレと台湾名物の葱パンを補給。台湾はコーヒーも美味しいけれどパンも美味しい。一息ついたところで、桃園 Taoyuan捷運(MRT)の第一機場站(第1ターミナル駅)でプリペイドの悠遊カードにチャージをして、路線図では紫色の直達(快速)車に乗り、35分ほどかけてまずは台北市へ向かう。去年の5月以来、1年半ぶりの台北までの車窓の景色に、リュック1つで外見に大したちがいはないけれど、気分は異邦人のままで。だが、夕刻の台鐵台北站周辺の活気と喧騒に、そんな感慨も吹き飛ばされて、俄然とミッション遂行モードに入る。ホテルのチェックインが17時からなので、台北站のすぐ南側、新光三越の裏側の街区で唱片行(レコード店)巡りをスタート。
まずは台湾各都市に数店舗を展開する《五大唱片 Five Music》。星巴克(スターバックス)のすぐ隣の2階にあって洒落た店内は若者が多く、K-POPと日本のアイドル中心の品揃えだが、LPのならぶ棚には〈滅火器〉のアルバムがあった。そのすぐ路地を1本はさんだ雑居ビルの3階の《唱片共和国》は、薄暗くて扇風機が静かに首を振る蒸し暑い店内で、タンクトップ姿の初老の店主がなにやら話しかけてくる。「Sorry, I canʼt speak Chinese」とこたえると、『カバンを椅子に置いてください』と英語とハングルと日本語で書かれたラミネート紙を提示された。『台湾独立音楽 CD Vinyls』と筆談をして何枚か選んでもらったなかから、去年の《搖滾台中》に出演していた〈TRASH〉の2014年のアルバムを購入。
さらにもう1本東側の通りにある《佳佳唱片行 Chia Chia Records》に。下北沢然とした地下の店内の棚の1つに台湾インディーズのCDが、ありがたいことに面陳されていて、2024年のフジロックで圧巻の演奏を魅せた〈草東沒有派對 No Party For Cao Dong〉と〈溫蒂漫步 Wendy Wander〉の初作、それに、初期のクリエイション・レーベルを彷彿とさせるラフで蒼いサウンドが日本でもカルト的な人気となった、〈透明雑誌 Touming Magazine〉のVo. 洪申豪 Hom Shenhao の新たなバンド〈VOOID〉の待望の初フル・アルバムと、to get リスト最上位のCDを入手。滑りだしはすこぶる順調だ。17時を過ぎて、新光三越のすぐ隣のビジネスホテルにチェックインをすませ、やっとの思いでシャワーを浴びる。

すっかり日も暮れて、じっとりとした蒸し暑さのなか向かったのはMRTで1駅、善導寺 Shandaosu 站からすぐの《華山 Huashan 1914文化創意產業園區》。日本統治時代の煉瓦積みの倉庫跡をお洒落な商業施設にリノベーションした一角に、レコード・ショップを併設したカフェ・バー《Vinyl Decesion》がある。去年の5月のfujirockers bar in Taipei以来の再訪だ。イギリス人の店主のマークが快く迎えてくれる。夜な夜な、台北に在留する音楽好きの外国人や、店内で開催されるギグ目当ての台湾人の溜まり場といった風情。この夜ライブをしていたのは〈Groove Station〉というキューバ人のノーマとブラジル人のファビオのボサノヴァ/ラテン音楽のデュオで、ちょうどfujirockers barの時にも演奏していた。なんていう偶然だろう。
イギリス、アメリカ、フランス、ブラジル、キューバ、台湾、そして日本…国籍も人種もちがう人々が、たとえ初見同士でも、ビートルズやローリング・ストーンズやボブ・マーリー、それにミルトン・ナシメントのレコードを聴きながら、あぁだこうだと語りあう。「もしレコードが資産になるなら、僕はかなりの資産家なのに!」「何枚くらい持ってるんだい?」「もう数えるのをやめたけれど、もし僕が死んだら僕のレコードはどうなるのか心配で。二束三文で売られてしまうのかな。仏教では輪廻転生を信じるから、生まれかわってもまた来世でレコードを買い漁ってるんだろうな。それが業(カルマ)なんだ」「俺の母親は敬虔なクリスチャンだから…」。そんな、とりとめのない会話だが、心がじんわりとほぐされていく。音楽が好きでよかった。「Music is my religion」。つまり、そういうことだ。
「台北は美しい街だから、歩いて帰ったらどうだ?」。マークにそういわれたものの、したたか飲み過ぎてしまった。「ここを自分の家だと思ってくれよ」というマークに感謝を述べて、帰りもMRTに乗って、コンビニで台湾に来たら買わずにはいられないスナック菓子〈可樂果 Kele guo〉を購入。期間限定の「香菜貢丸湯」味で、ほんのりパクチーの風味に豚のツミレがコンソメみたいな旨味で、やばい…ビール泥棒だ。台灣䏜酒の缶が気づけば空になっている。台湾にウコンの力的なものはあるのかな? さすがにそこまでは調べてこなかったな。

やっぱり、翌朝は二日酔いだった。昨晩コンビニで買ったマンゴーミルクが朝食代わり。それでも8時には美味いコーヒーを求めて朝の台北の街を散策する。金曜日だけれど10月10日は雙十節の祝日で、昨日の喧騒とはうって変わって台北駅のまわりには穏やかな日射しがふりそそいでいる。風が強くて、日陰だと肌寒いくらいだ。新光三越と大通りをはさんだすぐ向かい、《國家攝影文化中心臺北館》のいまはアート・ギャラリーになっている、重厚な近代建築の1階のショップの一角にあるカフェが朝から開いていて、美味しいカフェラテを飲むことができた。モダンな木のベンチに座っていると、外国人客が次々にやってくる。バリスタのお兄さんも気さくな感じで居心地もよかったけれど、エアコンが効きすぎて寒い。
午前中は”台湾の原宿”こと西門 Ximen 町へ。台北でも随一の映えスポットの虹色にペイントされた道路が、最近塗りなおされたらしい。この時間になると、真夏なみにギラついた日射しが照りつける。街路に建つ温度計が「34℃」と示している。たまらずに、地下のMRTの駅からエスカレータを昇ったすぐの場所にある《紅楼 Hong Lou》へ。日本統治時代の八角形の赤煉瓦の建物だが、いまは土産物屋や雑貨屋が軒を連ねるマーケットになっていて、貴重なトイレ・スポットでもある。公衆トイレは近年の台湾を象徴するようにジェンダー・フリー仕様。入り口にある土産物コーナーを冷やかすつもりが、去年誕生したばかりらしいゆるキャラの〈紅福 Hong Fu〉がいろんな台湾名物とコラボしたキーホルダーに、ついつい手がのびてしまった。見た目はジバニャンだが尻尾をみるからに狐らしい。かつて、この場所に稲荷神社があった由来からだとか。
〈紅福〉とレジのお姉さんに癒されたあと、《佳佳唱片行》の西門店へ。雑居ビルの2階が台湾とK-POPのアーティスト、3階が洋楽とジャズ、邦楽のアーティスト中心になっていて、去年も訪れた店だが、そのときは2階をのぞいても正直ちんぷんかんぷんだった。それが1年半で、店主夫婦との英語でのやりとりを介してとはいえ、今年の《大港開唱 Megaport Festival》で見逃した〈Blueburn〉、元〈雀斑 Freckles〉のG.の新バンド〈Everfor〉、それに〈落日飛車〉の過去作など日本では入手困難なCDや7インチ盤を何枚も買うまでに。我ながら驚きの探究心というか、はまりようというか。
いや、欲深い業なのだ。
次に《五大唱片》の西門店に向かったものの、なんど探しても、地図アプリ上であるべき場所にはナイキのショップが建っている。あれ、なくなった? 暑さから逃げるように、観光客慣れしていそうな、それでいて庶民的そうな早餐 Zaochan 店で、遅い昼食に台湾版のにゅう麺みたいな牡蠣入り麺線と西瓜ジュース…絶賛二日酔い中で、それくらいしか胃に入らない。《紅楼》までもどって、すぐ隣の昔ながらの長屋の一角の《沢龍唱片》で、これまた念願の〈老王樂隊 Raowan Band〉のアルバムを買うことができた。おそらく、なにかお探し、と声をかけてくる店主のおやじに英語で「《搖滾台中》を観にきた」と伝えると、さっそくiPadで出演者を調べて、このバンドも出るぞ、といろいろピックアップしてくれて、「〈草東沒有派對〉とおなじ音楽」と〈VH〉を薦めてくる。なんせ個人的にはNirvana以来の衝撃だった〈草東沒有派對〉が唯一無二すぎるので、絶対にちがうよな、と思いながら、まぁ今年の出演者だし、ともう1枚購入。おやじのほうはホクホク顔だ。

台北站にもどって、こんどは繁華街の中山 Zhongshan までMRTの2駅ぶんを歩く。台北站から中山站までは巨大な地下モールでつながれていて、灼熱の日射しを避けて歩くことができるし、あってはならないことだが有事の際にはシェルターにもなるのだろう。西門が”台湾の原宿”なら、中山は”台湾の銀座”? デパートやファッションビルが建ちならび、祝日ということもあって、若者たちや家族連れでごったがえしている。洒落たデパートの誠品生活を見てまわったものの、中山店には誠品音楽が入っていなかった。高雄の誠品書店にはあったのにな。
台北站のすぐ北側の路地裏の長屋に、元〈透明雑誌〉のDr.の唐世杰 Tang shijie の店《Waiting Room》がある。台湾のインディ・ロックのファンにしてみれば、聖地巡礼のようなものだろうか。ソウルやファンクの中古LPやアパレルに混じって、ビースティ・ボーイズのフィギュアやグランド・ロイヤル・レコードの雑誌なんかが飾られていて、世代的に親近感を覚える店内だ。「じつは〈透明雑誌〉のファンなんです」とふらりと来た日本人から伝えられて、朴訥とした好青年といった感じの唐世杰さんは驚いたように手を差し出し、握手を交わす。「ここに来るのは初めて?」「台湾にはなんどか来ているけれど、このお店には初めて来ました」。『洪申豪作品集』のCDと、JRのロゴをモチーフにした《Waiting Room》のオリジナルTシャツを自分へのお土産に。
台北站の窓口で高鐵(新幹線)のチケットを買い、発車時間まで駅地下のドリンク・スタンドで無数のメニューのなかから無難にオレンジ紅茶を。台湾のドリンク・スタンドはたいてい氷の量と甘さを 10 段階で選ぶのだけれど、めんどうなので「No ice, no sugar」と注文する。一路、台中市へ、1 時間弱の列車旅。日が傾きだした郊外の車窓は、田園風景のなかに家屋や工場、建設中の建物が交差する。高鐵台中站の隣の建設中の巨大な敷地の建物は、明らかに去年よりも工事が進んでいるけれど、まだ未完成だった。駅からタクシーで、去年泊まった西屯區とは地図上では真反対の西區のホテルへ。15 分ほど走って、着いたころには日もとっぷりと暮れていた。台湾の夜は独特の群青色だ。さぁ、明日から《搖滾台中 Rock in Taichung 2025》がはじまる。




