• 【LIVE】Hedigan’s、新EP『doyes』リリース記念ツアー閉幕-ジャンルレスな音楽に心を奪われた東京公演レポート

    2025年10月9日(木)、東京・LIQUIDROOMにて『Hedigan’s “Tour doyes”』ファイナル公演が行われた。メンバーが後のMCでも触れていたが、平日の夜にもかかわらず、場内は人で溢れかえっている。

    河西“YONCE”洋介(Vo,Gt)、栗田将治(Gt)、栗田祐輔(Key)、本村拓磨(Ba)、大内岳(Dr)の5人が登場すると、オーディエンスから歓声が上がる。オープニングナンバーは“Fune”。YONCEのアンニュイな歌声とゆったりとしたメロディは、大海原を漂う船に乗っているようだ。時折聴こえてくる、凛とした美しい音はトライアングルでもハープでもなく、なんと金属球。YONCE曰く、鉄鋼作家・飯田誠二による「Sei」というオリジナル楽器だそう。あえてステージを見ずに、目を閉じて耳を澄ませてみると、頭のなかに美しい景色が広がってくるようだ。

    つづく“再生”も、六畳半の部屋でレコードを再生しているようなノスタルジックな楽曲。レコードプレイヤーを動かせば、後悔も挫折も忘れて、ただ音楽に浸るだけ。私も嫌なことがあれば、昔なつかしい音楽を再生して感傷に浸ることがある。音楽好きなら一度は経験したことがあるのではないかというくらいに、普遍的な表現で心を揺さぶられる。



    ここからディープな世界観を展開していくのかと思いきや、“説教くさいおっさんのルンバ”でロックンロールの本筋を見せつけてくる。本来は、アコースティックギターを使用して一人語りするような、吉田拓郎的エッセンスを持つ楽曲なのだが、今回はトランペットとエレキギターの音が混じり合うゴリゴリのハードロックに。『フジロック’24』、『Hedigan’s “
    TOUR Chance”2025』など、過去どのステージとも違うアレンジで気分が高揚する。

    そう、これだ。原曲とまったく異なるイメージで攻めてくるのがHedigan’sの魅力だ。毎度違うパフォーマンスを観られるから、次回のライブにも行こうという気持ちになる。

    グレー”で繰り広げられるYONCEの高速拍手、YONCEと本村の茶番劇からスタートした“But It Goes On”をしっかり見届けた後、“DAO”をもって、いよいよ『doyes』が本格的に顔を覗かせる。赤い照明をバックに歌い上げるYONCE。逆光で顔が見えないが、エスニックで、どこか妖しい“DAO”の世界観とリンクしていた。フロア中に重低音が響き渡り、大内のドラムパフォーマンスが五臓六腑に染み渡り、テンションはそのまま、“Hatch Meets June”に突入。ハードでクールなメロディとは裏腹に、〈身分 言い分 アンダーザ・ムーン〉など、言葉遊びが面白い楽曲で、韻を踏んだリズムや巧妙な言葉選びにYONCEらしさを感じる。これは、彼自身がネオ・ソウルなどからインスピレーションを受けて、楽曲制作に活かしているようにも思えるし、瞬間的に思いついたアイデアなのかもしれない。序盤のMCで触れていた「最近ダジャレが止まらない」というのも何らかの伏線のようで、椅子に座りながら、うんうん唸る私であった。

    緊張感あふれるステージが続いたあとに演奏された“Eki”は、9分越えのインストゥルメンタル曲。ギター、ドラム、ベース…楽器の一音一音に耳を傾ければ、広大な森林地帯に流れる川、時折吹き荒れる嵐が想起される。大地のエネルギーをここまで演出できるのはHedigan’sの演奏力があってこそ。木々を愛し、自然を愛するYONCEの感受性が際立っているように感じた。

    表題曲“doyes”も同様。なんでもない日常を歌いながら、〈虹色に滲んだ水溜まり〉、〈片手間に銀河を駆け〉など、壮大なテーマを歌詞のそこらかしこに散りばめる。たしかに、私も夜道を駆けていく車のヘッドライトが妙に心象とマッチして、センチメンタルな気分になることがある。日常が色づく瞬間を見逃さない、鋭い感性を持つYONCEのセンスに脱帽した。

    後半に向け、スパートをかける1曲目は“敗北の作法”。「負けたことがある人ー?」YONCEの問いかけから始まり、原曲よりも叫び散らすなど、アレンジを利かせたライブならではのパフォーマンスでフロアのボルテージを加速させる。“BtbB”では、栗田兄弟の兄、祐輔の強烈なスクリームが轟き、近くでは固唾を呑んで見守るオーディエンスも見受けられた。



    「ロックンロールをやりにきました」と、メンバーがライブ前に言っていた言葉が、ここで活きてくるとは。オーディエンスは腕を上げて、たまにメロイックサインなんかやってみたりして。本編ラストナンバーは“O’share”。栗田将治(弟)の鋭利なギターはもとより、YONCE、栗田祐輔(兄)、本村拓磨、大内岳…それぞれの演奏にこめるエネルギーが、ひしひしと伝わってくる。ロックンロールがもつ情熱と自己表現が、“敗北の作法”から“O’share”にかけてぎゅっと凝縮されている。「ロックが好きでよかった」心からそう思えるようなライブで、本編は終了した。

    アンコールは“論理はロンリー”。やさしく穏やかなYONCEの歌声は、いつにもまして心がこもっているように聴こえる。それは、私がグッズ紹介で考えさせられたからだろうか。あるいは、本当に彼自身がなにかを思いながら歌っていたからなのだろうか。リズム隊のスローな演奏も相まって、悲しみが溶けていくような気持ちでライブは幕を閉じた。

    Hedigan’sの楽曲性にさらなる広がりを感じた今回のライブ。“Fune”や“Eki”でアンビエント的な雰囲気を醸し出したかと思えば、“DAO”でエスニックなステージへと変貌。“BtbB”でストレートなロックンロールを繰り出すことも、ジャンルレスなバンドの在り方を示している。

    金属球・Seiもかなりいい味を出していたし、これから登場するであろう新たな楽器に期待が膨らむ。植物を愛でつつ、来年またツアーで会えることを期待しよう。

    Text by YAMAZAKI YUIKA
    Photo by Kippei


    【SET LIST】

    1 Fune

    2 再生

    3 マンション

    4 説教くさいおっさんのルンバ

    5 カーテンコール

    6 グレー

    7 その後…

    8 But It Goes On

    9 DAO

    10 Hatch Meets June

    11 Eki

    12 夏テリー

    13 LOVE (XL)

    14 doyes

    15 敗北の作法

    16 BtbB

    17 O’share

    encore

    18 論理はロンリー

     

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