FOO FIGHTERS @ GLION ARENA KOBE 2025/10/10 ライヴレポート「俺はロックが大好きだ!」
- 2025/10/25 ● REPORT
神戸で魅せたフーファイ30年の軌跡と奇跡
「世界一熱い男」が帰ってきた。フー・ファイターズ(以下フーファイ)の司令塔にして永遠の熱血ロックキッズ、デイヴ・グロールがフジロック’23出演来2年ぶりに帰還。単独来日公演は何と17年ぶりとなる。2012年当時、『Wasting Light』の大規模な日本ツアーが予定されていたが、デイヴの喉が不調のため直前キャンセルに。涙を飲み、待ちわびたファンたちの悲願が遂に実現したのだ。デイヴご指名という、おとぼけビ~バ~とマキシマム ザ ホルモンがサポートを務めた10月7日と8日、さいたまスーパーアリーナでの2公演を終えた10月10日。日本ツアーの、そしてインドネシアはジャカルタにはじまったアジアツアーの最終公演をジーライオンアリーナ神戸で完遂した。神戸での公演は2003年の「MAGIC ROCK OUT」出演以来で22年ぶり。しかも今年、フーファイは結成30周年を迎え、神戸は阪神・淡路大震災から30年の時を刻んだ。様々な苦難を乗り越え、互いの30年を称え合うかのように邂逅したフーファイと神戸に不思議な縁を感じざるを得ない。

FUJI ROCK FESTIVAL ’23 | Photo by Ryota Mori
本ツアーラスト公演の舞台となったジーライオンアリーナ神戸は、阪神・淡路大震災から30年の節目に今年4月に開業した。「この世界の心拍数を、上げていく。」をコンセプトに、スポーツ・エンターテインメント・デジタルの融合により新たな驚きと感動を生み出す、神戸の未来を担う一大プロジェクトの基点となるのが本アリーナ。今年、30年を経て新しいフェーズに突入するフーファイ帰還の地としてこれほどうってつけの会場はないだろう。
開場予定の17時半頃アリーナに到着した。港に沈んでいこうとしている太陽がとても美しい。アリーナ・スタンディングに入場する1階と、指定席の2階の入口に向かってファンたちがすでに長い列をなしていた。購入したTシャツやタオルを早速身につけて実に嬉しそう。「“Weenie Beenie”やってくれるかなー!」とか、今夜のセットリストを予想し合ってワイワイ盛り上がっている。ライヴ前の期待と興奮でいっぱいの雰囲気。これがたまらず好きなのだ。コンコースから神戸の海や街、夜景が楽しめるのもこの会場のおいしいところ。フロアに入ると、Sham 69の“If The Kids Are United”が流れていた。フーファイのSEは素通りできない。ビートルズ、メタル、ヒップホップ、そしてデイヴ出自のハードコア・パンクなどなど、デイヴとフーファイのメンバー自らが影響源に対する敬意たっぷりにセレクトしたであろうことが伝わってくる。故オジー(・オズボーン)やザ・ランナウェイズの名ナンバーも、あえてライヴバージョンを持ってきているところにも根っからの音楽ファンたるこだわりが感じられるのだ。
開演予定時刻の19時を15分ほど回った頃、客電がフッと落ちる。瞬時にパンパンなフロアから爆発的な歓声が巻き起こったものの、すぐに明るくなりまたSEが流れはじめた。トラブルなのかハラハラさせてくれる。更に5分程度押し、真っ暗闇のステージで雷のように轟きはじめるギター。デイヴがトレードマークの鮮やかなペルハム・ブルーのDG-335をかき鳴らしながらステージに走り込んできた。クリス・シフレット、ネイト・メンデルにパット・スメア…メンバーが次々に登場して、5人が定位置に落ち着くと、デイヴが「Are you ready!?」とまくし立て「Let’s go!」の掛け声とともに“Enough Space”で開演。今夜のデイヴは黒のTシャツ(後にSNSで大きな話題となった落語家桂九雀のイラストがあしらわれた「KUJAKU」Tだ)にジーンズという永遠のロック少年な出で立ちだ。デイヴが髪を振り乱しながらザクザクと刻む重たいギターリフ、のっけから炸裂するキレッキレの豪快なシャウトで一気にフロアを沸騰させにいく。真紅の照明に切り替わると、鳴り響くはあのギター。鳥肌がゾクゾクッと立つ。“All My Life”でオーディエンスは熱狂の渦に完膚なきまでに叩き込まれた。ものすごい暴れっぷりのフロア。ここで魅せたのは新ドラマーのイラン・ルービン。巻き起こるハンドクラップ、ヘヴィな3ギター…その瞬間生まれた音に合わせてドカドカと打ち込まれる強靭なビートは、バンドのグルーヴを深化させていた。続く“Rope”の間奏部のギターとの掛け合いもお見事。即興技巧が光るイランはライヴでこそ映えるドラマーだ。
すぐさま奏でられたギターフレーズにフロアが沸く。「俺と歌いたいか!?」と熱くあおってくるデイヴ。“The Pretender”だ。欺く権力者や政治家を非難しているようにも受け取れるが、私個人に向けた歌と感じてしまう。いつまで装っているつもりだ?、なぜ見て見ぬフリをするんだ?、お前は何者なんだ?と。厳しい問いを突きつけられつつも、お前は違うだろ、諦めるな!と鼓舞してくれるかのような叫びに胸が熱くなる。間奏部でバンドがグルーヴたっぷりにAC/DCなブギーを繰り出すのだから、もう。腕を振り上げ頭を振り、叫ぶしかないのだ。
「ライトをつけてくれ!みんなを見たいんだ。ヘーイ!楽しんでるか?」ギターを優しく奏でながら語るデイヴ。「この街でプレイするのは、本当に本当に本当に久しぶりだ。17年?20年?分からないけど、戻って来れて嬉しいよ。来てくれてありがとう!」この簡単なやり取りだけで会場中に笑顔が咲く。「今年は、俺たちの30周年記念の年なんだ!」とバックに「1995 30 2025」の文字があらわれた。「ほんと長い時を経て来たもんだ。30年だから多分1年に5曲ずつか?つまり…今夜150曲やるってことになるな!できる限りたくさんやるぜってこと。この30年で創った曲をな!」と届けられたのは“Times Like These”。イントロだけで熱いものがこみ上げてくる。バックに「FF」のロゴが大きく映し出され…
「こんな時こそ、生きることをもう一度学ぶ時/こんな時こそ、与え、手を差し伸べ続ける時/こんな時こそ、再び愛を知る時/こんな時こそ、何度も何度も」
何度聴いても毎回涙腺が緩んでしまう。コロナ禍中の2020年、救援活動支援のチャリティソングになり豪華スターが共演した曲だ。今夜、この曲は自身の、そして神戸のここまでの歩み、格闘を互いに称え合うかのように響いている。人生で苦しんでいた時にデイヴがナプキンに綴った歌はこれからも世界中の人々の傍らで鳴り、希望を与え続けていくことだろう。
イエローの照明がきらめく中、小気味いいベースが鳴り響く。「この曲、ネイトのベースが最高なんだ!」と“La Dee Da”を発進。パットのギターソロが炸裂し、ラミ・ジャフィーの浮遊するようなエフェクトの後には頭蓋骨に直撃するデイヴの超絶シャウト。跳ねるバンドのグルーヴにただただ心地よく身を委ねた。
ステージが暗転し、デイヴにスポットライトが当たり、優しいギターフレーズとともにはじまった“These Days”と“Walk”。生と死、傷心、それでも前を向く希望、デイヴの内面をさらけ出す人生の歌に声を張り上げる自分がいる。周りのオーディエンスも涙目で熱唱。これがフーファイのライヴならではの一体感なんだ。
ここで恒例のデイヴによる愉快なメンバー紹介タイムだ。今回のテーマは「カラフル」だ。巧みなソロでリードギターっぷりを見せつけたクリスには「カラフルなシャツで毎晩俺たちを驚かせてくれるんだ。今日のやつは最高だ。様々な色が溶け合ったアイスクリームみたいだよな」と。「ベーシストとして十分にカラフルだよ」とネイトを紹介すると、「あんまりカラフルじゃないから何かカラフルなやつをやれよ!」とラミ・ジャフィーに無茶ぶりをするのだ。キーボードでサイケデリックな音をラミが繰り出すと「茶色だな…いやレインボーだ!」とおどけるデイヴ。「パット・スメア!かつてはカラフルだった」とデイヴがからかうと、いつもの安心の笑顔で応えるパット。にこやかなパットの笑顔にはいつも癒される。最後に「カラフルなドラムセットだろ?やつのドラムはモンスターだ!」とイランを称えた。そして、馴染みのギターフレーズを奏で、「この曲でみんなが一緒に歌ってくれるのがいつだって大好きなんだ」と“My Hero”を披露。爆音でかき消されていたラミによるピアノの調べが感動的に響いた。サビはもちろんみんなで大合唱。デイヴも「いいね!」とご満悦の様子だ。
そのままなだれ込んだ“Learn to Fly”と“This Is a Call”のキラーチューン2連発。終盤のセッションがどこまでも自由でロックンロールで、完璧な締めくくりで魅せるのだ。圧倒的なグルーヴ、かつてライヴで体験した同じ曲とは思えないほどの百戦錬磨っぷり。これが30年をかけて世界中を回り、地道に足で稼いできた男たちの成果なんだ。
まだまだ止まらない。重量級のリフが繰り出され“No Son of Mine”がスタート。激しさを増してきた。この手の曲はデイヴの十八番だ。かつてProbotというヘヴィメタプロジェクトをやってしまうほどのメタル野郎なのだから。デイヴとクリスが繰り出すいかにもなツインリードも絶妙だ。しかも、モーターヘッドの超名曲‟Ace of Spades”の一節まで披露。敬愛する亡きレミー(・キルミスター)に捧げる咆哮が会場に轟いた。今夜のデイヴの喉は冴え渡っている。続く“The Sky Is a Neighborhood”と“Shame Shame”はイランのドラムとネイトのベースのリズム隊がグルーヴの肝だ。音源では体感できない太いビートが全身に心地よく降り注がれる。抑え目だからこそ感じられるデイヴの多彩な声色が際立ち、曲の持つかっこよさを後押ししていた。“Big Me”では、バックにフーファイ30年の軌跡と奇跡の映像がずらっと映し出される。その中には2022年に急逝したテイラー(・ホーキンス)の姿も。
「ありがとう!もう一曲聴きたいか?5曲か?みんな次第だよ。コンサートはオーダーメイドだからな。ここからまたはじめようぜ。“Monkey Wrench”だ!」とデイヴ。初期衝動満載に疾走するこの曲はいつだって最高だ。ライヴだとハイオク満タンにギターがドライブするのだからなお更である。間奏部で即座にオーディエンスがハンドクラップで応えたのを見て「やってくれると分かってたぜ!」と嬉しそうなデイヴ。デイヴが客に挑戦する恒例のシャウト合戦では、とめどなくフロアから飛び交う叫びに「勝てないって!わかったよ…シー!」とコントのようなやり取りに発展した。ライヴの醍醐味、ここに極まれりである。
浮遊するような美しいギターフレーズが奏でられ、ステージが深緑のオーロラ色にきらめくと、オーディエンスはスマホのライトをオンし、フロアが光に包まれる。“Aurora”だ。テイラーが最も愛したこの曲。ステージ上方にはテイラーを象徴する翼を広げた鷹(hawk)が描かれる。「今も、これからも、俺たちがするすべてのことの中にいるし、どこに行っても、常に一緒だ。永遠に」と30周年のエッセーで語っている通り。最後の轟音セッションの凄まじさも相まって、今夜もこの場に一緒にいたであろう唯一無二の親友に対する想いに目頭が熱くなった。
さて、今宵何度目のハイライトだろうか。「長い間やっていなかったことをやろう!」と驚きの瞬間が訪れた。即興やセッション一切なしのオリジナルバージョンの“Breakout”ど直球に投下したのだ。レコードに収録されている通りの“Breakout”が披露されたのは、2002年2月7日の米アナハイムにおけるハウス・オブ・ブルーズ公演以来のこと。道なき道を走り続け、未来への扉を次々開けていった先にたどり着いた原点回帰。どこまでもピュアでシンプル、潔く生々しい。これぞロックンロールだ。
「もっと聴きたいかい?150曲もあるんだからな。よし、こいつは146曲目だ!」とはじまったのは熱き応援歌“Best of You”だ。この曲をライヴで居合わせた人たちと一緒に大合唱するのはいつだって最高。しかも今夜は待望のフーファイ単独公演なんだ。輪をかけて格別に決まっているだろう。
「みんな楽しんだか?よかった。俺たちもだ。アジアツアーをここで締めくくることができて最高だよ。パーフェクトなベニューにパーフェクトなオーディエンス…今夜はなんてパーフェクトなんだ!来てくれて本当にありがとう!」とファンに向け真摯に感謝を伝え、デビュー当時の30年前はセットの最後にやってた曲だという“Exhausted”を披露。90年代を感じさせる重たく哀愁漂うサウンドが鼓膜を振動させる。デイヴがフィードバックノイズを出力し残響が漂う中、勢いよくギターで刻まれたのはあのフレーズ。今夜のラストダンス“Everlong”だ。デイヴの「最後だぜ!最後だぜ!一緒に歌ってくれ!」との掛け声に、フロアはひたすらに飛び跳ね、手を叩き、声を上げる。バンドとオーディエンス、ともに全力でエネルギーを放出し2時間の激アツステージを駆け抜けた。
デイヴがフーファイとともに30年かけて磨き上げてきた楽曲とパフォーマンスは、ロックの魔法そのものだった。まだ10代だった頃、ロックンロールの洗礼を受けたあの感覚。「俺はロックが大好きだ!」と鮮やかに呼び覚ましてくれたステージだった。
Text by 三浦孝文
追伸
単独来日公演ツアーを終えたばかりのフーファイは、ニューシングル“Asking For A Friend”を日本時間10月23日にリリースした。イランを新ドラマーに正式に迎えた新生フーファイとして初のリリースとなる。ヘヴィでダーク、後半に向けて疾走する100%フーファイな曲だ。デイヴはこの新曲について「希望と信念を胸に、寒空の下で辛抱強く地平線を眺める人々に捧げる曲だ」とコメント。何と熱く、ロマンチックなんだろう。新譜のリリースが早くも待ち遠しい。更に、来年の北米スタジアムツアー「TAKE COVER TOUR 2026」も同時発表ときた。8月4日のトロント公演を皮切りに、9月16日のラスベガス公演で千秋楽を迎える12公演が予定されている。しかも、サポートアクトはデイヴがドラマーと在籍したQueens Of The Stone Ageに、Mannequin PussyとGouge Awayの名も!この面子で数々のキラーチューンを地元のファンたちと熱唱するんだ。最高に決まっている。このツアーが始まる頃には新譜もリリースされているかもしれない。来年の夏は渡米するしかなさそうだ…
Foo Fighters – Asking For A Friend (Audio)
“DO YOU LOVE ROCK AND ROLL???
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