• 感じること、祈ること、みんなでつくるということ。PYRAMID GARDEN -Beyond the Festival-レポート


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    今年のフジロックの1週間前、7/19(土)と20(日)に初開催された『PYRAMID GARDEN -Beyond the Festival-』。2010年にはじまり今年15周年を迎えるピラミッド・ガーデンだが、このフェスティバルにはフジロックのステージのひとつとしてのこの場所ではなかなか感じることのできない、様々な体験があった。その様子を筆者が感じたことを交えながらレポートしたい。

    様々な体験を持ち寄るフェスティバルの一日

    前情報だけではいまいち全貌が想像ができなかったこのフェスティバル。どういう人がどれくらい来るんだろう?そんな気持ちでピラミッド・ガーデンに向かうと、一年ぶりのあの光景が目の前に広がっている。開場の挨拶で「来てくれてとは言いません、つくってくれてありがとうございます」と語るディレクターのキャンドル・ジュンは、四季折々の魅力があるこの苗場で、一年を通して開催していきたいという展望を描いているという。今日がそのはじまりの日だ。

    最初のステージまではしばらく時間があるので、みんなテントの設営をしたり、談笑したりと、ゆったりと過ごしながらもこれから始まる2日間にワクワクしている様子。僕も歩いてみることにしよう。

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    フェスティバル初出店というSKYDRIVEのブースで体験したディスクゴルフは、ディスクを投げてゴルフのようにコースを回っていくという競技。一見単純なものに見えるが、ゴルフでいうパターやドライバーといった用途別のディスクがあったり、プロのコースだと「この木の間を通すこと」のような条件をつけてラフやバンカーを表現しているようで、やってみるととても奥が深い。僕も最初は大暴投を繰り返していたが、徐々にコツを掴んでうまく投げられるようになっていくプロセスがなかなか愉快だった。

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    新潟の胎内市でキャンプ場も運営しているRealizeYourOwnのブースでは、日本海の流木を使ったウインドチャイムをつくった。自分で色を選び、輪っかをつけてパーツを糸でまとめるのは意外と苦戦したが、「こうしたらやりやすそう」とその場に居合わせたみんなで試行錯誤しながらつくっていく。こういったワークショップの体験を通して触れ合う機会がとても多いのは、このフェスティバルの特徴の一つだろう。

    dj sleeper

    dj sleeper

    そんなこんなしているうちに、DJ PYRAMIDにdj sleeperが登場。サニーデイ・サービスなど出演者の楽曲を織り交ぜながら、親しみやすい選曲でウェルカムのムードを演出。これから始まる2日間への期待があふれる絶好のオープニングだ。

    曽我部恵一

    曽我部恵一

    ステージ最初のアクトの曽我部恵一は、“サマー・ソルジャー”や“キラキラ!”など、バンドとソロのライブでそれぞれハイライトとなるような曲を、惜しみなく連発。2021年にここで観た時は「フジロック2021の最終日朝のピラミッドガーデン」にピンポイントで刺さったライブだったが、今回はこのフェスティバルが内包している多くの可能性を讃えるように響いていたのが印象的。長かった髪をばっさり切った姿もあいまって、心機一転で歩み出すこの場所への祝福のようでもあった。

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    少しゆったりしていると、フォークダンスがスタート。ジェンカのリズムに合わせてステップを踏み、音楽が止まったらじゃんけん。負けた人が勝った人の後ろにつき、一列になるまで続けるキャンプレクリエーションのような遊びだ。ここにはお客さんだけでなく、フードやワークショップの出店者、運営に関わる人、僕のような取材関係者、あるいはフジロックの設営で来ている人など様々な人がいるが、そんな立場なんか関係なくみんなまぜこぜになっていく。「久しぶり!」とフォークダンス中に再会したり、そこで隣り合った初対面の人と話したり、そうでなくともなんとなく一体感が生まれた、このフェスティバルが目指したいことを象徴する一幕だった。

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    フォークダンスで優勝したうちのひとりの方と話してみると、新潟県の移住支援をする会社の担当としてここに来たそうで、はじめて来た会場の規模や出店の多さに驚いていた。もっと広いフジロック会場の一角ではあるが、接点のなかった人々が知らなかった文化に出会うことも、このフェスティバルの大きな意義だろう。毎年ジプシー・アヴァロンの担当をしているというスタッフの方も、フジロックとの空気の違いが印象的だそう。移住支援というとかたいイメージもあるが、フェスティバルの中での場としてアプローチできる意義を感じているようだ。

    同じように新潟からの出店の方々と話してると、今回の出店ではじめてこの場所に来たという方も多いそう。フジロックで来る僕らも、愛着は持っていても湯沢町や新潟のことを満喫し切るのもなかなか難しい。以前参加したボードウォークキャンプの時に、大将こと日高正博氏が「フジロックやスキーだけじゃなくて、春の桜や水芭蕉、秋の紅葉など、四季折々を感じてほしい」という話をしていたことをよく覚えているが、キャンドル・ジュンが話していた展望は日高氏の理想にもつながるはず。フェスティバルの内と外を繋ぎ、新潟の人と来場者がゆるやかに交わるこの場は、まさに“フジロックを越えた”可能性を感じさせる。

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    みんなでつくるいい雰囲気。実践を通して表現する様々な理想

    かなりゆとりのあるタイムテーブルなので、ワークショップやフードを楽しみつつ「待ってました!」という期待感でライブにも自然と足が向く。さらにキャンドル・ジュンはライブのたびに「お互いの顔が見えるといいコミュニケーションが生まれる」とか「ゴミを捨ててもいいよ。キャンドル・ジュンが拾うから。だってモテたいから」とか、ユーモアを交えつつゆっくりと語りかける。「ルールやマナーだからしてはいけない」という注意喚起ではなく、ポジティブな提案として伝えるからこそ、みんな自然とそうしてみようという気にもなって、いい雰囲気が醸成されていくのだろう。

    奇妙礼太郎×U-zhaan

    奇妙礼太郎×U-zhaan

    だからこそ奇妙礼太郎×U-zhaanのライブもよりいっそう沁みてくる。ラフな歌い回しの弾き語りの奇妙礼太郎と、多種多様な打音を響かせるユザーンの掛け合い。いつも以上にとりとめのないMCを織り交ぜながら、笑っていいとも!の“ウキウキWATCHING”を笑顔で楽しんだり、スリリングなセッションに白熱して声をあげたり、しんみりと聴き入ったり。流れる時間を通して、ライブを”観る”という行為がより自由度のある“楽しむ”や”感じる”になっていく。徐々に暗くなっていきライブが終わる頃に暗くなったステージには、キャンドルが暖かくともっていた。

    Moshimoss

    Moshimoss

    阿部芙蓉美

    阿部芙蓉美

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    暗くなってキャンドルの火が灯り厳粛な気持ちが湧いてくるピラミッド・ガーデン。そんな雰囲気をMoshimossがアンビエントの音像でさらに幻想的に演出し、ステージを引き継いだのはダウナーなトーンが印象的だった阿部芙蓉美。ゆっくりとつまびくエレキギターに乗せて、朴訥な歌い回しに時折ハッとするフレーズが織り混ざり、どんどん内省的な気持ちになってくる。終盤にはキャンドル・ジュン自らキャンドルを配り、ぽつぽつと会場に火が灯っていく。火を通して自分を見つめなおすような、今日ここにしかない特別な体験もまた、この日のハイライトの一つだろう。

    DJ KOTARO

    DJ KOTARO

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    DJ KOTAROの繰り出すシンセサウンドが鳴り響く中で、ドローンの群体が様々なモチーフを夜空に描いていく。そして、メインビジュアルのピラミッドのモチーフに続いて、LOVE、PEACEが描かれる苗場の夜空。バックグラウンドも違う様々な人々が多様な過ごし方をしているピラミッド・ガーデンでも、この時だけはみんな一様に空を見上げている。

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    そんな中、どんどんキックが強調されて踊りたい気分が加速していくピラミッド・ガーデン。先ほどまで厳粛な雰囲気だったのが、ふと気づいたらダンスフロアになっているのだからたいしたものだ。それでもガンガン踊る人や焚き火を囲んでゆったり語り合う人など、様々な過ごし方をする人がいる。後ろの方ではフジロックでパレス・オブ・ワンダーなどを手がけるチームが大きな輪になって宴をしている様子。そこかしこにこういった光景が見られ、思い思いの時間を過ごしながら夜はふけていく。

    LUCA & There is a fox

    LUCA & There is a fox

    そして、この日最後のステージとなるLUCA & There is a foxが登場。男女2人のシンガー・ソングライターが織りなす柔らかなハーモニーを少しうとうとしながら聴き入っていたが、そこには何も損なわれない安心感があった。坂本九の“見上げてごらん夜の星を”でも、暗くて周りのみんなの表情は見えないが、同じような気持ちを共有していることはなんとなくわかる。LUCAが話していた、安心して眠れる場所があるということ。最後に登場したキャンドル・ジュンは「祈ることが自分の仕事」と話していて、歌うことも料理をすることも、どれも祈ることなのだという。彼の言葉を借りるならこれも祈ることなのかなと考えながら、明日の平穏を思い静かに眠りについた。

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    この日を通して印象的だったのは、ピラミッド・ガーデンに流れる独特の雰囲気。横に座っていた時に「肩で虫が交尾してるよ!」と声をかけられてたまたま知り合ったdj sleeperも、自身も長野県松本市の『りんご音楽祭』をオーガナイズする身として「これができるのがすごい。やろうとしても普通できない」と話していた。キャンドル・ジュンが折に触れて繰り返した「みんなでつくる」ということは、ある意味では当たり前のことではある。しかしながらそれを“お客さん”が実感として持てるかという話になると、そう簡単ではないことのようにも思う。そんな「みんなでつくる」をただのお題目にせず、お客さんやスタッフといった立場を越えてそれぞれが自然と感じられたことが、とても心地のいい一日だった。さあ、明日はどんな日になるだろうか。

     

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