【FRF’25 ARTIST PICKUP vol.3】FAYE WEBSTER / MAYA DELILAH / MEI SEMONES ─ インディシーンを駆け上がる新世代女性アーティスト
- 2025/07/01 ● COLUMN
出演アーティストが出揃って、もうじきタイムテーブルが発表されるであろうこの時期。ラインナップを見てみると、今年も「これからの活躍が楽しみで仕方がない」若手アーティストが見受けられる。キャリアの長いバンドは勿論、期待のニューフェイスのライブを観たいというフジロッカーも多いのではないだろうか。本コラムでは今年初出演の女性アーティスト3組を取りあげ、それぞれの簡単な経歴と支持される理由、ライブでもおそらく観ることができるであろう人気曲を取り上げていきたい。
FAYE WEBSTER
米ジョージア州・アトランタ出身のシンガーソングライター、フェイ・ウェブスター。エリオット・スミスやアウトキャストの影響を受けた彼女は、フォークとR&Bをミックスした独自のサウンドを展開していくこととなる。16歳で自主制作したデビューアルバム『Run and Tell』は、アメリカ南部のフォークを色濃く反映したシンプルなサウンド。彼女だけの音楽性が出始めるのはまだ先の話となる。その後、ウェブスターは2018年に3rdアルバム『Atlanta Millionaires Club』をリリース。青春時代に一度は経験するであろう“失恋”を歌ったリード曲“Room Temperture”は、彼女お得意のスライドギターとハワイアンなビートが心地よい音色を生み出している。MVはそこはかとなくシュールで、フラダンスとシンクロナイズドスイミングが何の因果性を持っているかが一見分かりにくいが、冒頭の涙を流すウェブスターを含めて、より等身大の少女が感じるであろう、不安や焦燥感を引き立てているように感じる。
Faye Webster “Room Temperature”
対して、昨年リリースした5枚目のスタジオ・アルバム『Underdressed at the Symphony』は、まさに“彼女自身”を体現した作品。ウェブスターの人生の中で生み出された感情が楽曲に落とし込まれており、タイトルは彼女がアトランタ交響楽団のコンサートの中で生み出された感覚からインスパイアされたものだと本人は語っている。同郷のラッパー、リル・ヤッティをフィーチャーした楽曲“Lego Ring”は初期作品にみられるシンプルなメロディ進行とは違い、ゲーム音楽のようなワクワク感がある。予測できないリズムの緩急は聴く者を揺さぶり、自然と体が揺れてしまう。ちなみに、太鼓の達人・リズム天国などのゲームが好きな方は下記のMVも一緒に見て欲しい。
Faye Webster “Lego Ring (feat. Lil Yachty)” [Official Video]
約10年のキャリアの中で培われた作詞作曲のセンスは、こんなにも短期間で面白い形に変化していくものか?と筆者は驚きを隠せなかった。根底にあるルーツは変わらずに、シンセサイザーや彼女自身の解釈でミックスさせたR&B、ヒップホップを加えることで、インディー・ロックと一概には言えない楽曲群を生み出す。ウェブスターの音楽に触れたい方は7月26日(土)WHITE STAGEにお越しいただきたい。
MAYA DELILAH
イギリス・ロンドン出身のマヤ・デライラは、アデル、エイミー・ワインハウス、ジェシー・Jなど著名なアーティストを多数輩出した名門ブリットスクール卒業生。元々、R&Bやソウルに興味があり、8歳の時に姉の影響で始めたギターも相まって早々にギタープレイと作曲能力が開花する要素があったのだが、彼女の強みは何といっても“SNSを活用したPR“にある。2017年にInstagram、2019年からはTikTokへ演奏動画の掲載を始めて、世界的な注目を浴びることとなり、現在は100万人を超えるフォロワーを獲得。SNSの影響力が良くも悪くも絶大な今日のネット世界の中で、彼女のハスキーな歌声と「R&B x ブリットポップ」な音楽は人々の目に留まった。過去のミュージシャン達はYouTube等の動画サイトさえ発達していなかったことで、埋もれていく才能も沢山いたことだろう。マヤの音楽が世に放出されたことは筆者としても喜ばしいことだし、皆さんも気軽にSNSで「mayadelilah」と検索してほしい。
@mayadelilahh
もう一つ、これは忘れてはいけない。彼女が過去にRolling Stone JAPANで語っていた「ギターが男性の楽器と認識されているのが嫌だった」ということ。アートスクールに入学後、周囲でエレキギターを弾いているのは男性ばかり。その一方で女性たちがアコースティックギターを選んでいる光景を目の当たりにしたマヤは、あえてエレキを多用する楽曲製作を行うことで”強い女性”を体現した。今年2月にブルー・ノートからリリースしたデビューアルバム『THE LONG WAY ROUND』は、正に今を生きる一人の女性を描いた作品。”悲しみも苦しみも山ほどある人生(タイトル的には長い道のり)”を大きな愛で包み込んでいる。収録曲の中でも”Begin Again”はマヤの優しい歌声が印象的で、線香花火のような儚い美しさを持ったスローバラード。日本語で表すと「あはれ」だろうか。
Maya Delilah “Begin Again (Live From Middle Farm Studios / 2023)”
ちなみに、2021年にリリースしたサム・ヘンショウとのコラボ曲”Breakup Season”は、シティポップのようなリズム展開で、夜に聴いてもそのまま寝てしまいそうなくらい心地よい楽曲だ(筆者は実際に寝落ちしたことがある笑)。今回のフジでは7月25日(金)FIELD OF HEAVENに出演する。時間帯によっては、そのまま草地に寝転ぶのもアリかもしれない。
Maya Delilah “Breakup Season (Feat. Samm Henshaw)” [Official Music Video]
MEI SEMONES
日本人の母とアメリカ人の父を持つメイ・シモネスは、4歳のころ祖母が購入したピアノをきっかけに音楽に親しみを持ちはじめ、11歳でギターに転向し、高校でジャズプログラムに参加する頃にはプロへの道を志すようになった。高校を卒業すると、クインシー・ジョーンズやボブ・ジェームスなど140人以上ものグラミー賞受賞者を卒業生に持つバークリー音楽大学に入学。同校でジャズギターを専攻した彼女は、益々音楽性に磨きがかかり、2022年にはデビューEP『Tsukino』をリリースした。日本語と和を思い起こすようなメロディに、弦とライドシンバルの音色が時折顔を覗かせる”Yoake”は、不思議な空間に迷い込んだような世界観を感じさせ、コーラスパートで《お願い…お願い…》と日本語でリフレインする歌声はリスナーに恐怖と不安を掻き立てる…。英語ではなく、あえて日本語で歌うことで、和製ホラー映画のような空気感を引き出している。
Mei Semones “Yoake 夜明け” (Official Music Video)
一転して、今年5月にリリースされたばかりのデビューアルバム『Animaru』では、カントリーロック調の”Animaru”や、お洒落なカフェのBGMとして流れていそうなお洒落な”Zarigani”などバラエティに富んだアルバムになっている。メイはとりわけ、ウッドベースとヴァイオリンを入れるタイミングが巧い。ジャズを学んできたからこそ培われたセンスに、英語と日本語を織り交ぜた歌詞など他にはないスパイスを加えることで、新たなジャンルを確立した。
余談だが、楽曲とあわせて一度、オフィシャルホームページとinstagramを見てもらいたい。メルヘンチックでかわいいメイの人となりが少しでも分かると思う。ショート動画ではギタープレイの一部も掲載されているので、7月27日(金)RED MARQUEEへの予習に観てみるのもいいかもしれない。
Mei Semones “Zarigani” (Official Video)
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今回取り上げた3組は、元々音楽的ルーツが近いところもある。だが、故郷で感じた思い、人生経験、女性の権利…一人ひとりテーマを持って、現代ならではのネットツールを利用して発信している。一部界隈で「インディー・ロックは終わった」と言われることもあるが、決してそんなことはない。その理由のひとつとして、2020年頃からはインディー・ロックが新たなフェーズに入ったと筆者的には考えている。
インディー・ロックは元々反商業主義から発展した “オルタナティブ” なものだったが、モダンミュージックの良さを継承しつつ、「ポップ」を取り入れることに抵抗がないアーティストが増えたことで、アングラなイメージが減少した。従って、モダンジャズ、R&Bとポップミュージックを融合させた彼女たちの音楽は、2000年代から2010年代中盤までの「インディー・ロック」や2020年代における「オルタナティブ●●」とは別物と言ってもおかしくはないだろう。
例えば、グレース・バウワーズ(グレース・バウワーズ & ザ・ホッジポッジ | 7月27日(日) FIELD OF HEAVEN 出演)のギタープレイは、ファンクカッティングにメロスピのような速弾きを入れてくるので、予測展開ができず面白い。若手アーティストの伸びしろは凄まじく、SNSを通じて世界中の人々の目に留まりやすくもあり、むしろ今が再興期と言っても良いくらいだ!と個人的に考えてしまうのだ。
最後に、先日ステージ割りが発表された時に驚いた方も大勢いるだろう(筆者もその一人だ)。というのもジャズ、ボサノヴァやチェンバー・ポップをルーツとするメイ・シモネスが、DJやエレキギターをかき鳴らすロックミュージシャンの出演が多いRED MARQUEEに登場するからだ。
マヤ・デライラは、森に囲まれたFIELD OF HEAVENに出演するということで、彼女が奏でるオーガニックなミュージックを観たかった人にとっては喜ばしい限りだろう。WHITE STAGEでフェイ・ウェブスターのスライドギターが炸裂する瞬間も盛り上がること間違いなし。関連ゲストの登場もあり得るのがフジロック。楽しみに待とう。
text by YAMAZAKI YUIKA