【FRF’25 ARTIST PICKUP vol.2】HYUKOH & SUNSET ROLLERCOASTER(AAA) / BALMING TIGER / SILCA GEL – ユニークな進化を続けるアジアインディ発バンド
- 2025/06/02 ● COLUMN
今年のフジロックのラインナップが「フジロックらしい」「バランスがいい」と感じるひとつの要因として、いま観たいアジアを代表するバンド/アーティストがラインアップされていることが挙げられるだろう。中でもそれぞれ韓国と台湾を代表するバンドであるHYUKOH & SUNSET ROLLERCOASTERによるジョイントバンド“AAA”の昨年のワールドツアーでの来日以来となるフジロックでの再来日、2度目のフジロック登場となるBALMING TIGER、初登場のSILICA GELはタイミング的にもかなりアツい。アジアのインディシーンというよりK-POPファンにとってもこの3組はBTS・RMの傑作2ndアルバム『Right Place, Wrong Person』のキーマンとしてプロップスを得ている。このアルバムのフィーチャリングアーティストのリトル・シムズやドミ&JDベック、モーゼス・サムニーらと並び、この2024年最高のインディアルバムの重要な一角を占めた彼らの存在感はすでにアジアにとどまらないのだ。
HYUKOH & SUNSET ROLLERCOASTER(AAA)
おのおの10年と15年のキャリアを持つソウルと台北を代表する2バンドが、これまでも交流はあったものの、協同するなんて音楽ファンにとっては垂涎ものだ。ロックのオーセンティシティとインディスピリットを備えるHYUKOH、AORやシティポップの洒脱さと、その奥にあるボサノヴァやジャズへの愛を持つSUNSET ROLLERCOASTER。ともにワールドツアーを成功させ、コーチェラなど大きなフェスにも出演し、グローバルな地位を確立している。彼らの出会いは意外なことに東京。HYUKOHのフロントマン、オヒョクが『through love』に伴うワールドツアーで日本を訪れていた際に、アルバム制作で滞在していたSUNSET ROLLERCOASTERと偶然出会い、SUNSET ROLLERCOASTERの“Candlelight”にフィーチャリング参加することに。さらにSUNSET ROLLERCOASTERがHYUKOHの“Help”をリメイクした。この2曲はコロナ禍の先が見えない状況の中でどれほどリスナーの光になったか計り知れない。
ともにワールドツアーやアルバム制作で多忙を極め、キャリアハイにあった彼らは2〜3年のスパンを開けた。そして両者にとってのカムバックが、ジョイントバンド“AAA”のセルフタイトル作になった。国も言語も違うバンドがともに作品を作る。それも1曲だけのコラボやフィーチャリングではない。昨年7月、先行ナンバー“Young Man”を聴いたときは2バンドどちらのイメージとも違う素朴さが耳を引く曲調に驚かされた。だが、ハードワークとパンデミックを乗り越え、30代を迎えた若者の節目としてとてもリアルなものだったのだ。もちろんアルバム曲はおのおのの音楽的アイデンティティが溶け合い、ときに混沌も並置されている。HYUKOHのオーセンティックさとSUNSET ROLLERCOASTERらしいシンセの遊び心が交わる“Kite War”、繰り返されるシンセのループ、少しなつかしいせつなさを含むファンクテイストの“Y”など、プロデューサーのJNKYRDを含めた10人の楽しい試行錯誤が結実している。
【AAA LIVE】Young Man
【AAA LIVE】Hoji Hoji LaLa jo
驚いたのは彼らのライブが“AAA”の新曲以外もメンバー全員が一同に介して両バンドのレパートリーを演奏することだ。昨年9月にスタートしたワールドツアーは東京でも行われたので目にした人もいるだろう。私は台北公演を目撃したのだが、単独公演は約2時間半、おのおののレパートリーも数多く選ばれ、AAAのライブアレンジが施され、楽器が増えることでボリュームアップするのではなく、強度が増すという印象を持った。また、メンバーだけでなく韓国、台湾双方のスタッフが互いに理解、協力してAAAの世界観を作る様子も素晴らしかった。フジロックでどこまで本ツアーに近い演出が実現するかは観てのお楽しみだが、苗場でも“Access All Area=すべての境界線を超えていく”チームのスタンスが確かめられるだろう。
[LINK] HYUKOH | FUJI ROCK EXPRESS ‘19 | WHITE STAGE
https://fujirockexpress.net/19/p_1743.html
[LINK] SUNSET ROLLERCOASTER | FUJI ROCK EXPRESS ‘19 | RED MARQUEE
https://fujirockexpress.net/19/p_1759.html
BALMING TIGER
2023年のフジロック初登場をその年のベストアクトに挙げるフジロッカーズもいそうなBALMING TIGERのステージ。以降も坂本龍一のトリビュートフェス「RADIO SAKAMOTO Uday-NEXT CONTEXT FES DIG SHIBUYA-」への出演などで来日しているが、この間彼らの音楽が幅広く届いたのはNHKドラマ『東京サラダボウル』主題歌になった最新曲“Wash Away”のリリースが大きいだろう。パンクもR&Bもヒップホップも洗練された手つきでオリジナルに混ぜ合わせる彼らのなかでも、ポストパンクを多文化の鍋にほりこんだ印象の“Wash Away”はドラマの主題やテイストともマッチ。今年はさらにオーディエンスが増えること間違いなしだ。
Balming Tiger | Wash Away(Official Audio)〜NHKドラマ「東京サラダボウル」OST〜
演劇ともダンスパフォーマンスとも呼べて、しかもどちらの枠も超えていくパフォーマンス、しれっと高いスキルを持つシンガーとラッパー。しかも演者であると同時にクリエーターとしての顔を持ち、映像担当やライターもメンバーに存在するこのコレクティヴはおそらく世界で最もクールなメディアなのだ。ライブやダンスチャレンジで共演した新しい学校のリーダーズなど、コラボレーターにとってもキャッチーなだけじゃない存在になっている。
Balming Tiger | Buriburi(Live at Fuji Rock Festival 2023)
Balming Tiger | Split Chaebol(Official Video)
[LINK] Balming Tiger | FUJI ROCK EXPRESS ‘23 | RED MARQUEE
https://fujirockexpress.net/23/p_1664.html
SILICA GEL
AAAもBALMING TIGERもすこぶるユニークな存在だが、初登場のSILCA GELはいま、世界的に見ても最も先鋭的なバンドかもしれない。すでに10年以上のキャリアを持ち、当初の実験的なアプローチを作品毎に研ぎ澄ましてきた彼らの音楽は先鋭性を削がないまま、韓国のグラミー賞と呼ばれる「韓国大衆音楽賞」を2023年のアルバム『POWER ANDRE 99』で受賞するほどの説得力を身に着けた。昨年6月にはゲストにbetcover!とmaya ongaku をおのおの迎えた2日間の東京公演を実施、そのユニークさがSNSで拡散されると見逃した音楽ファンの再訪を願う声が目立った。キム・ハンジュ(Vo,Gt,Key)、キム・チュンチェ(Gt,Vo)、キム・ゴンジェ(Dr)、チェ・ウンヒ(Ba)の4人全員がアイディアをぶつけ合いながら完成させる楽曲はモダンサイケデリアやドリームポップ、ポストロックやエレクトロなどを軸にしつつ、1曲に全く異なるジャンル感が展開したり、何よりギターヒーローでもあるチュンチュのメタル、ときにフュージョン色もあるマシンライクなプレイがジャンル感を拡張する。
Silica Gel | NO PAIN [MUSIC VIDEO]
時期はさまざまだろうが、彼らがワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、バトルス、エレクトロ以降のレディオヘッドなどと音楽的に共振してきたのも納得だし、近未来SFチックなソリッドで展開の読めない世界観は音楽というより、むしろ攻殻機動隊とかエヴァンゲリオンのトーンに近い。曲調もインストバンド的な先の読めない展開もあれば、ストレートな代表曲“NO PAIN”、サイバーというワードを音にしたような“APEX”もある。が、ハンジュが作曲・プロデュースを手掛けたRM「LOST!」をカバーしたMVでは髪飾りをつけたメンバーがパペットと共演していたりもする。ちなみにハンジュはBALMING TIGERの「1時間反復再生ライブ」にシンセで参加していたり、交流はあらゆる方向に広がっている。
Silica Gel | APEX [MUSIC VIDEO]
アジアのインディバンド、特に今回挙げた3組はバンドの音楽やアートをきっかけに企業やブランド、オーバーグラウンドのK-POPに刺激を与える時代のゲームチェンジャー。今年のフジロックでどんな存在感、見え方をするのか楽しみでならないし、ここからさらに何が繋がっていくのか?興味は尽きない。
Text by 石角友香