【LIVE】忌野清志郎 ROCK’N’ROLL DREAMERS @ RAINBOW STAGE | 朝霧JAM ’25 2025/10/19「雨あがりの夜空にはじけたロックンロール」
- 2025/11/04 ● REPORT
 
「愛しあってるかい?」
キヨシローこと忌野清志郎の魂が2002年の出演来、23年の時を経て朝霧の地に降臨。キヨシローを敬愛する愉快なロックンローラーたちがドカドカうるさいR&Rを奏でれば、子どもから大人、犬まで、集った誰しもが飛び跳ね、手を叩き歌う。朝霧アリーナ一帯は問答無用でどんちゃん騒ぎ状態に。まさに「雨あがりの夜空に」なった朝霧JAMのエンディングを愛たっぷりに締めくくってくれた。

キヨシローがRCサクセションとしてデビューして55周年となる今年。名盤『シングル・マン』のデラックス・エディションが発売され、東京は原宿の竹下通りにある「UNIVERSAL MUSIC STORE HARAJUKU」では<RCサクセション&忌野清志郎 55th Celebration POP-UP STORE>が開催、26年秋公開予定を目指すという初のドキュメンタリー映画の製作も決定した。キヨシローが旅立ってから早16年。世界を見渡せばいまだに戦争や紛争は続いていて一向に平和にならない。キヨシローが生前に憂えた世界のままだ。こんな不安定な時代でこそ、キヨシローの歌は世界に生々しく響き、人の胸を打つ。25周年という節目の年を迎えた朝霧JAMの幕引きに、忌野清志郎 ROCK’N’ROLL DREAMERSがキヨシローの楽曲を称え、集ったオーディンスと共有した意味はとてつもなく大きい。
今年の朝霧JAMも2日目の最終日、とっぷりと日が暮れ、メインのレインボー・ステージも最後のアクトを残すのみとなった。バンドがセッティングに勤しむバックにはザ・モンキーズの“Daydream Believer”やサム&デイヴの“Hold On, I’m Comin’”といったキヨシロードンズバなナンバーばかりが流れ、場の空気感が自然と整っていく。開演予定の5分前。降り続いていた雨が上がった。まさに「雨上がりの夜空に」。完璧なタイミングでROCK’N’ROLL DREAMERS BANDのメンバー7名が登場しブルージーなセッションで開演。互いの出音具合を確かめ合いながらも、梅津和時と多田葉子、そして渡辺隆雄のホーン隊3名がいなたくムーディーに吹き上げてキヨシロー印のあの雰囲気を創り上げていく。宮川剛が叩き出す軽快なビートがオーディエンスのハンドクラップを促し“よォーこそ”のゴキゲンなセッションタイムへ。かつてRCサクセションの所属レコード会社、東芝EMIの宣伝担当を務めた高橋 Rock Me Babyがキヨシロー愛たっぷりなド派手な装いで登場。後ろにはシャブちゃんこと山本キヨシもいる。「キヨシローが朝霧に帰ってきたぜ!夢を持った奴らがこんなに集まってくれた!夢のようだぜー!ロックンロール!」と高らかに開演を宣言した。

ステージに呼び込まれたトップバッターは、今年ROUTE 17 Rock’n’Roll ORCHESTRAでフジロックデビューを果たした暴動クラブのフロントマンの釘屋玄と、GLIM SPANKYのギタリスト、亀本寛貴。藤井一彦がギターフレーズを刻み“ベイビー!逃げるんだ。”を軽快に発進。藤井一彦に続いて2番を歌うのは、釘屋玄。直前に体調不良のため出演辞退となったGLIM SPANKYの歌姫、松尾レミの急遽代打を務めることになった。煌びやかな装飾を腕に巻き付けてあらん限りにマラカスを振り、がなりたてる。藤井と亀本が向かい合って弾き倒すギターの掛け合いも抜群にロックンロールだ。亀本のウェスタンシャツもきまっている。リリース当時三菱自動車のCMソングに起用された有名な逃避ソング。10代の頃に初めてこの曲を聴いた時はロックなのに逃げるのかよと感じだものだが、今は随分と印象が変わった。理不尽だらけ世の中にNOを突きつけ「逃げたっていいんだぜ」と語りかけてくれているように聞こえてくる。加川良の“教訓”に通ずるものを感じるようになった。そしてバンドマンであり続ける者たちへの応援歌でもある。自由を希求するロックバンドの猥雑で退廃的な匂いがプンプンするぜ。「レスポールが重すぎたんだろ」のラインに俺らが憧れるロックンローラーのすべてが詰まっているのだ。

釘屋の紹介で暴動クラブの仲間、マツシマライズが加わる。低めに構えたギター、紫のシャツにつばの広いハット、そしてタイトなブラックジーンズ。二人が肩を組み並んだ姿はまるでエアロスミスのスティーヴン・タイラーとジョー・ペリーのToxic Twins、は言い過ぎだろうか。フロアからの手拍子とともにアルバム『BEAT POPS』のオープニングを飾るキャッチーでオーセンティックなロックンロールナンバー“つ・き・あ・い・た・い”を繰り出す。歌の中に登場する「アレを持ってたら」の「アレ」って一体なんだろうか?いけない「アレ」からいけてる「アレ」まで色んなものが想起される。簡易で簡潔な言葉で受け手の想像力をダイレクトに刺激。キヨシローの言葉の妙技が効いたこの曲を若き二人が嬉々と演奏しているのだ。もちろんベテラン勢だって負けちゃいない。藤井一彦はステージ前方に躍り出てギターをかき鳴らし、梅津和時はサックスを豪快にブロウするのだ。こんなステージを目撃してしまったら「アレ」はやっぱり「ロック魂」だと思えてならない。

「次はYO-KINGさんです」とYO-KINGが手を振りステージに登場しと釘屋とバトンタッチ。歌うは“ぼくとあの娘”だ。上手い!キヨシローの本質を突いたような歌声とシャウトで説得力たっぷりに歌い上げる。どうしようもない二人のどうしようもないラヴソング。泣けてくる。歌のどうしようもない二人のように、世界中の小さな二人が本気であたためあえたら最高だ。歌い終わると「次は山口洋さん!片平里菜さん!」とあっさりと退場したYO-KING。バンドが下がり、二人が登場するまでの間、感極まった雰囲気が一帯を包み込んでいた。

ギターを手にした山口洋と片平里菜が奏でたのは“風に吹かれて”。ボブ・ディランの代表曲“Blowin’ in the Wind”の日本語カバーだ。所属レコード会社の東芝EMIが発売中止を発表したことで有名な反戦・反核をコンセプトとしたカバー集『COVERS』に収録されている。山口が奏でるギターがあまりにかっこいい。レッド・ツェッペリンのごとく重たくドライブするリフ。山口のド直球なギターにケツを蹴り上げられたロック馬鹿は私だけではないだろう。重厚なギターと歌のテーマへのアンチテーゼのようにサビ部で片平が刻む爽やかなアコギの音、歌い上げるクリアな片平の歌声は解き難き問いを真っ直ぐに投げかけてくる。「その答えは風の中さ 風が知ってるだけさ」をこの場に居合わせたみんなで大合唱。山口と片平、二人ががっちり握手し熱く締めくくった。

高橋 Rock Me Babyが再び登場し、ROCK’N’ROLL DREAMERS BANDのメンバーをステージに向かって右から順に紹介。すでにギターと歌で大活躍の藤井一彦にはじまり、キーボードの伊東ミキオ、2002年に朝霧のステージでキヨシローと共演したドラマーの宮川剛、「トミー!」とみんなで声援を送ったベーシスト井上富雄、高橋 Rock Me Babyに「ソウルな名前」と称されたトランぺッターの渡辺隆雄、テナーサックスの多田葉子、そして「キング・オブ・サクソフォン」梅津和時の激アツな7名全員を称えた。「あの曲が聴きたくなってきた!あのソウルはこの男しか歌えない!」と登場したのは田島貴男。ほんの数時間前にMOONSHINE STAGEをソロで大いに沸かせた「ミスター・ソウルマン」だ。ナンバーは“スローバラード”。どこまでもロマンチックなこの曲をシャウトも炸裂させて激しく歌い上げる。梅津が吹き上げるサックスと田島による魂の咆哮がぶつかり合う。二人がしゃがみ込んで繰り広げる掛け合いは場を完全に圧倒。これぞソウルだ。

ここで満を持してダイアモンド☆ユカイのお出ましだ。ヒョウ柄のシャツにキラキラのジャケットを羽織り頭上には黒ハット、特製のマイクスタンドを振りまわすという、期待通りのかっこよさ。曲もドンピシャなバンドマン賛歌“ドカドカうるさいR&Rバンド”だ。盛り上がり必至のキラーチューン。藤井がざっくりとリフを刻み、マツシマライズが再びステージでソロをかましてロックスター臭をふりまいている。ユカイは終始ノリノリに歌い、ペットボトルの水を口に含んで客席に吐き飛ばす。往年のロックンローラーなパフォーマンスで魅せる。フロアから飛ぶ歓声に「朝霧最高だぜー!」とご満悦だ。
高橋 Rock Me Babyが出演者全員をステージに呼び込んでいく。メンバーが揃うと「高校生の時に屋根裏にRCサクセションをよく見にいっていて、バンドが大きくなっていくのも見ていた。自分がRED WARRIORSでまさか武道館までいけるとは…RCがいなかったら俺たちもいなかったかもしれないな!愛してるぜキヨシロー!」と今年RED WARRIORS結成40周年を迎えたユカイが語り、届けられたのは“イマジン”。言わずと知れたジョン・レノンのアンセムにして『COVERS』を締めくくる日本語カバーだ。意訳だが、ジョンよりも原曲に込められたメッセージを鮮明に伝えている。ユカイと片平がボーカルを取る。ユカイがいなたく吹き上げるブルーズハープも絶好調だ。後半は有名かつ意味深なコーラス部「僕らは薄着で笑っちゃう」を全員で。「つ・き・あ・い・た・い」のB面曲“窓の外は雪”の引用でもあるが、果たして何を意味するフレーズなのか。お互い笑い合えるくらい無防備でいよう、その先に平和が浮かび上がってくるということなのか。バンドが奏でる落ち着いた音色を楽しみつつ、決して「想像してごらん」とは歌わなかったキヨシローの“イマジン”に込められた深淵さを堪能した。「仲間がいるのさ」でピースサインを高々と掲げたユカイの笑顔が今も脳裏に焼き付いている。

高橋 Rock Me Babyによる「来年のフジロックで会いましょー!」の掛け声とともに山口洋があのリフを刻んだ。冒頭に飛び出すドクトル梅津によるサックスの鳴りだけで泣けてしまう。YO-KING、田島、片平、釘屋が交互に歌い上げ、藤井が流麗なソロを繰り出し、ダイアモンド☆ユカイはマイクをオーディエンスに向ける。RC一番の代表曲にして邦ロックのスタンダード・ナンバー“雨あがりの夜空に”を徹頭徹尾、この瞬間、この場にいるみんなで声を張り上げ大合唱だ。どこまでもはじけたロックンロールで創り上げた大団円のラストシーン。ロックンロールが描き出す夢が、奇跡が、その瞬間確かにそこにあったのだ。
キヨシローのメッセージは愛と平和だけではない。目を背けたくなるような人間の残酷な面も突きつける。人間の存在やあり方をすべて踏まえた上で問いかける「愛しあってるかい?」なのだ。今こそキヨシローの作品を聴くタイミング。あらためて触れなおす絶好の時なのだ。聴き継いでいこう。「愛しあってるよ!」とこたえられるように。
Photo by 白井絢香
Text by 三浦孝文

忌野清志郎デビュー55周年企画の集大成!ドキュメンタリー映画制作決定!
2026年秋 全国公開予定
www.toei-video.co.jp/kiyoshiro-movie
監督: 相原裕美





