• フジロックに行かなくなった理由


    Photo by 花房浩一

    Photo by 花房浩一

    「あの空間が大好きだ! 」
    「フジロックは僕らにとって三ヶ日!」
    そんなカルト的とも言えるファンの意見をよく聞く。僕はといえば、毎年フジロックエキスプレスを更新するために現地に足を運び、文字通り朝から晩まで会場内を歩き回り、フジロックの魅力を探して記事にしている。これは、フジロックが好きだからこそ、できることだと思う。僕がこうなったきっかけは、客としてフジロックに行くようになり、その楽しさに取り憑かれてもっとフジロックに関わりたいと思い、オルグの門を叩いた。オルグには、僕と同じようにフジロックに魅了された人たちの集まりだった。どんなにきつい作業が待っていても、フジロックと関わっていることが楽しくて、これまで続けることができている。
    さて、今回はそんな僕にフジロックを教えてくれた人の話をしたい。彼は2004年ごろからフジロックに行き続けていた。2007年、フェスというものに行ったことがない僕に、突然「フジロック行こうぜ」と誘い込んだのだ。フジロックと引き合わせてくれ、僕の人生を変えたひとりだと思っている。そんな彼は、去年からフジロックに来ていない。当たり前のように僕たちの中にあり続けたフジロックが、突然途絶えたのだ。

    「去年は確かコロナになったんだよな? 今年は行くんだろ? 向こうで乾杯だな」
    「……。ああ。そうだな」
    「ん? なんか歯切れが悪いな。なんかあるの?」
    「今年も行かないかな」
    「なんだよ。どうしたんだよ」
    「フジロックってさ、何しにいってる?」
    「まぁ俺は仕事もあるけど、もうルーティンになってるな。逆に行かない理由がないっていうか」
    「お前はそうだよな。俺はさ、こどもが今年から小学生なんだよ。7月って夏休みだろ? 今まで保育園だったから、好きなときに休みが取れて、いつでも遊びに出かけられたけど、小学生って休みが決まってるんだよな」
    「そうだな。でも夏休みって長いだろ? 子供と過ごす時間は8月にもあるじゃないか」
    「嫁さんの実家が北海道だろ? 8月って飛行機高いんだよ。だから、フジロックのときが仕事的にも金銭的にも帰省しやすいんだよなあ」
    「おいおい、ちょっと待てよ。その問題は別に昔から変わってないじゃないか。それでもフジロックを選んできただろ?」
    「……まぁな」
    「??」
    「俺去年フジロック休んだだろ。そのときにふと思ったんだよ。どうしてフジロックに行っていたのかなって。もちろん、いろんなアーティストをあの広大な会場で爆音で聴くっていう理由もあるんだけど、俺の中のフジロックってそれだけじゃないんだよ」
    「わかるよ。ライブももちろん良いけど、あの場所に足を踏み入れることで、ワクワクするよな。あの空間にいるだけで、浮き足立つっていうか」
    「そうそう。でもさ、そのワクワクした感じ、最近感じてる?」
    「……」
    「俺が行き始めたころって、会場がどんどん拡がっていったり、ステージが増えるだけじゃなくて、いろんなことが毎年起こり続けていたんだよ。毎年毎年、違う面が見れて、いつもびっくりしてた」
    「そうだな。すでにオレンジコートはあったけど、そのもっと奥のカフェパリとかできたとき、やべえ! ってなったよな」
    「パレスからカフェパリまで、サーカスが縦断したりとかさ。ライブそっちのけで、サーカスについて行ったりしたよ」
    「あったあった(笑)」
    「だけど、最近どうだ? さらに拡大するかもなんて噂もオレンジコートがなくなって以来たち消えてさ」
    「UNFAIRGROUNDとかあったじゃないか」

    Photo by 阿部光平

    Photo by 阿部光平

    「だから、行ったよ。でもさ、ここ数年、フジロックに行っても、あのとき感じたワクワクを感じることができないんだ。アーティストを見に行くだけなら、単独もあるし、わざわざ苗場に行かなくてもいいかなって。だから家族と天秤にかけたときに、今年も行かないって決めたんだ」

    返す言葉が見つからなかった。
    非日常が味わえる!
    今年もあの場所で乾杯!
    そんな当たり前のようにあった僕たちのフジロック共通理念は、環境の変化によって消えてしまった。これは自分たちの環境の変化だけが要因なのだろうか。僕たちにとってのフジロックの魅力ってなんだろう。その魅力は今も輝き続けているのだろうか。一種のフラッシュバックのように、過去の興奮を探しに行っているだけなのではないか。今の僕には、その答えを見つけることができない。この話は、古参的なのだろうな。きっと、これから初めてフジロックに行く人たちは、新鮮な興奮があって、今のフジロックを楽しむことだろう。そんな人たちを否定する気はもちろんないし、昔は良かった、なんて野暮なことも言いたくない。でも、友人が指摘したように、マンネリ化したフジロックに僕は何を追い求めているのだろうか。だからと言って、もういいやって、フジロックに行かない選択をする勇気もない……。

    それはひとえに、僕の心の中でフジロックがまだ燃えているからなんだろう。このまま燻りつづけて、いつか燃え尽きてしまうのか。それともまたメラメラと燃え盛るのか。
    僕はその答えを探しに今年のフジロックに行こうと思う。そしてまた、あのワクワクを感じることができるのであれば、友人に言ってやりたいのだ。
    「フジロック行こうぜ」と。

    Photo by Yusuke Baba(Beyond the Lenz)

    Photo by Yusuke Baba(Beyond the Lenz)

    Text by 紙吉音吉

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