アンクルオーウェン船長・松井聡太インタビュー(後編)〜 ONDA VAGA(オンダ・バガ)は「オンダさん」と呼んでください 〜
- 2012/07/03 ● Interview
アンクルオーウェンを仕切る「船長」こと松井聡太は、今年も、「本命ではなく大穴狙い」のスタンスを崩さない。レーベルのコンセプトは「酔楽(ようがく)」。勢いまかせのコンセプトにもとれるが、そんな勢いに賭けられるレーベルは、そう多くはないだろう。むしろ、そこが彼の強みであり面白いところだ。
今年のフジロックでは、出演アーティストにアルゼンチンのアコースティックバンド、「オンダ・バガ」を抜擢し、いろいろとたくらんでいる。そんな「たくらみ」の元となる、レーベルと彼のポリシーもあわせて訊いてみた。
過去のフジに出演させてきたレーヴェンやムスタングと違い、オンダ・バガの曲はゆったりとしている印象だ。アンクルオーウェンの先輩でいえば、ヴェリー・ビー・ケアフル(以下、VBC)と似た雰囲気がある。苗場の自然の中にも、ゆるやかにとけ込んでゆくのではないだろうか。
ラテンというか、クンビア寄りなので、確かにウチでいうとVBCの流れではありますね。オンダ・バガの基本はゆったりとしてますけど、突然、とんでもないキラーチューンぶっ込んでくるんですよ。なんで、アンクルオーウェンの色というか、「にぎやかし」の要素もあります。ライヴも多くやりたいんで、ステージに限らず、ちょっとしたスペースがあったら教えて欲しいですね。店でもいいんです。ウチのアーティストはいっぱい演奏しますけど、そのかわりに、好きなだけ飲むこともOKしているんです。
オンダ・バガは、アコースティックのみのバンドのため、身動きもしやすい。そんな背景もあって、レーヴェンを超える出演回数を狙っているそうだ。このバンド、メインヴォーカルがころころ変わったり、何とも不思議なスタイルをとるのだが、これは聴いてもらわなければわからない。
7月4日の発売となるのだが、前もって予習するも良し、苗場で見て、そのまま岩盤に駆け込むも良し。インタビューの場となったアイリッシュ・パブでは、すでにBGMとして流されているようだが、評判は上々どころか、ちらほらとお客さんが「誰の曲なんですか?」と声をかけてくるという。
曲によって歌う人が変わりますし、コーラスもあるんで、ひょっとすると誰がメインをとってるのかわからないかもしれません。それも含めて、面白いバンドだと思います。アルバムは日本向けのベスト盤なんで、選ばれた曲によっては、ゲストが参加してたりするんですよ。それらの曲を5人だけでどう表現してくるのか……これは僕も楽しみで仕方ないです。あと、ラモーンズの”ハバナ・アフェアー”のカバーも新鮮で良いですよ。
そして、次のように付け加えた。
それに、晴男(はれおとこ)なんですよ! フジが晴れたなら最高じゃないですか(笑)
相手が苗場なのに、ずいぶんとハードルを上げるではないか。その「運」の実力は、現地にて皆さん自身が判断していただきたいと思う。苗場という場所で最も求められる「晴男たち」をどうやって知ったのだろうか。
たまたまなんですけど、オンダさんのことは海外のイベントで知りました。実は、ちょうどスマッシュも気になってた存在だったみたいなんですよ。彼らはマヌ・チャオのアルゼンチン公演の前座も経験しているし、タイミングがあれば、という感じでしたね。
今回の日本盤はライセンス(海外盤に帯をつけてそのまま出す形)ではなく買い切りで、オンダさんのベスト盤という形で出します。今回は本人たち自身が、日本語の中で特に響きが気に入ったという、『モシ・モシ』というタイトルをつけてます。「もしもし?(パラダイスへ行こうぜ!)」っていう呼びかけでもあり、「(日本での)名刺代わり」という意味も込められています。
「オンダさん」という響きがまた、馴染みやすい。
是非、ライブで「オンダさーん!」て呼んでいただければ(笑) 彼らも皆さんと近いところにいたいはずですし、僕ももちろんそうありたいですから。「遊び心」の部分をさらに言わせてもらえば、今回のオンダ・バガのアルバムには、エンハンスドでPVが入ってるんです。それも、歌詞の発音をカタカナにして映像に乗っけてます。フジロックで歌ってくれたらいいな、と。歌ってくれますかね? 紙しばいみたいなのはどうでしょう? 芸人がスケッチブックでやるような感じで!
彼はこういう人間なのだ。全てが遊びの延長にある。最後に、レーベル運営についていくつか訊いてみた。
このレーベルが面白いのは、「酔楽(ようがく)」というコンセプトだけではない。例えば、ちょっとしたユーモアがそえられた「邦題」なども面白い。もっともこれは遊び心のみで産み落とされているわけではなく、日本語の言葉に置きかえることで、アーティストが込めた想いを届けようとしているという。
僕自身のこだわりなんですけど、アルバム名と、推したい曲には邦題をつけるんです。レーヴェンのアルバムに、『ようこそ不思議なキツネの村へ』という邦題をつけたのは、スウェーデンの言葉や綴りなんて、日本人の僕らからすると、「何じゃこりゃ?」なんですよ。まったくこっちに入ってこないんです。元の意味も通るように考えてますし、個人的にも大好きな作業ですから(笑)
曲によっては、アンドリューWKやコルピクラーニばりのぶっ飛んだ邦題がつけられていることもある。
実は僕、コルピを出してるレーベルで修行してたんですよ。彼らはかなり弾けた邦題をつけてたんですが、僕らもわかってつけてましたし、お客さんもわかって買ってるという感じですね。ちょっとだけ突っ込める要素を含ませたりする部分が、やってて楽しいなーと思います。印象にも残りますし、周りが面白がって広まっていく可能性もありますからね。何よりも、レーベルと買ってくれた人が、互いに「わかってる」関係になれたらな、と思います。
最後に、アンクルオーウェンのポリシーを訊いてみた。
みんな知ってるバンドを紹介するんだったら、それは僕らインディーレーベルの仕事じゃないっす。僕らは、変わった音だったり、面白いバンドを紹介するべきだと思うんです。ウチはライヴが楽しいバンドしかいないんで、音源だけじゃなくて、ライヴに来てほしいんすよ。フジに限らず、とにかく新しい音楽に触れてほしいですね。「世の中にはいっぱい楽しいことがあるんだぞ!」っていうことを伝えたいんですよ。
船長は、お客さんの驚きを面白がる性格を持っている。インタビューでは「悪だくみ」や「やらかす」、「勝手に」といった言葉が多く出ていたように思う。それらに共通する部分が「遊び心」なのだろう。今年のフジロックでも、オンダ・バガと共にやらかしてくれるのは間違いない。今後のアンクルオーウェンの動きに注目です。
(前編を読む)
□オンダ・バガ(日本限定ベスト盤)
□レーベルコンピ
アンクルオーウェン所属バンドを集めたコンピレーションアルバム『JOLLY PIRATES〜海賊の宴』が、ヴィレッジ・ヴァンガード限定発売。
発売中 アンクルオーウェン公式よりリンク先へ。
アンクルオーウェン公式サイト:http://www.uncleowenmusic.com/
写真:西野太生輝
文章:西野太生輝